切り
更新 031012
初稿 090121
たたんだ生地を包丁で切り、麺にします。切り、または包丁と呼ばれる工程です。
1.こま板をかぶせるまで
まずまな板に生地より少し広め程度に打粉をまき、その上に畳んだ生地を乗せます。まな板がない場合は、しかたないので延し板の上で切ります。
画像で生地の左にに置いてあるのは、たたまれた生地と同じ厚みの板です。こま板の左が下がると包丁際が浮いて切りにくくなりますが、この工夫でとても切りやすくなります。
生地の上にもうち粉をまいてサラサラにします。これを忘れるとこま板が生地に吸いついて動きが悪くなります。
準備ができたら、生地の右端を少し残してこま板をかぶせます。
次に包丁を生地の右端に当て、そのまま静かにまな板におろします。
このとき庖丁は僅かに(上端で3〜5ミリ)左に傾けます。この角度を角度Aとします。通常、切りの作業中、庖丁の角度はこの角度Aより垂直に起きることはありません。
補足) 本職の場合、庖丁を右傾きから始めて垂直で終わる切り方もあります。これは生地が厚いからできるワザですが、こま板を工夫すると素人でも行うことができます。詳しくはコラム編c24番を参照してくだいさい。
次に三本の指を立ててこま板におき、こま板の枕を押して右に滑らせて庖丁に当てます。次にこま板の枕から5センチ程度離したところに左手を動かして、板面を軽く下に押します。三本指のほか中指と薬指も第一関節を板にあてておきます。
なお5本指を開いて、全部の指でこま板を押してもかまいませんが、なるべく均等に押すようにします。
2.切り作業の詳細

図1
これがこま板が庖丁にあたった状態。左手でこま板を下向きに軽く押して準備完了です。

図2
次に左手の力を緩め、庖丁を握る手にグっと力を入れると同時に手首を軽くひねり、包丁の角度を大きくします。これを角度Bとします。するとこま板が左に移動して、生地の右端がこま板から顔を出します。

図3
再びこま板を下に押しつけながら、包丁を生地より数ミリ高く上げます。同時に、空中で庖丁を角度Aに戻します (ここからあとはこま板と庖丁は交互に下に押すことになります)。

図4
庖丁をおろして生地を切ります。庖丁はこま板の枕に触れながら下ろします。また、行き違いにこま板を押す力を緩めます。

図5
庖丁がまな板についたら、庖丁を角度Bまで倒します。こま板が動き、次に麺になる生地が顔を出します。

図6
こま板を下に押しながら庖丁を引き上げます。角度を角度Aに戻します。

図7
こま板の力を抜きながら庖丁を下ろします。図7は図4と同じ状態ですから、あとはこれを繰り返します。
庖丁とこま板は、交互に下向きに力をかけることになります。この交互操作をリズミカルに行うのが切り幅を安定させるコツです。
3. 上達したら
ここで大切なのが図5の動作で、初心者は「傾ける」という意識で結構ですが、慣れてきたら、切り終えた庖丁をさらに左下に押す感じで倒します。つまり「傾けて倒す」意識ではなくて「押し倒す」感じ。リズミカルに切れば自然にそうなります。この意識で図4と図5が連続したら中級です。
さらに慣れてきたら、図4で切りはじめると同時に握力を増大させ、なおかつ手首をひねる動きを入れて、意図的に回転運動をさせながら切り下ろすようにします。庖丁が生地を切り終わり、まな板に達した時点で角度Bに達し、こま板も押され終わっているのが理想です。

図8
図示するとこんな感じです。これが出来たら上級です。速く切れますし、回転の支点にならないので庖丁やまな板も傷みません。
このほか切り幅を一定に保つコツとしては、
・足をしっかり決めて腰を安定させて切る
・脇をしっかり締める
・庖丁を深くしっかり握る
などとなります。庖丁はへその右10センチくらいの、ある狭い範囲でしか安定しません。したがって切るにつれて足腰をずらして、へそを左に移動させます。しかしその移動範囲は10センチもないのです。そこで蕎麦を一人前切るごとに立ち位置を変えて、庖丁が安定する位置で作業をします。
4. 庖丁の押し方
以上は庖丁の柄を軸とした回転運動ですが、前後方向の動きにもコツがあります。
これが真下に押している図ですが、このように真下に押すことはあまりありません。
庖丁はこのように、向こう方向に押しながら切るのがコツです。やわらかい生地でも少し押すと庖丁が安定します。超粗挽きなどの硬い生地ではできる限り斜めに押して切るとよく切れます。
ただしやわらかい生地を極端に斜めに押すと、刃の移動距離が長いので麺線が縒れてしまうことがあります。そういう場合はほどほどにします。
刃を斜めに押すと実質的に刃が鋭利になるので、切れ味がよくなり、角のたった美味しい蕎麦ができます。つまり庖丁自体の切れ味も蕎麦の味を決めるわけですが、切り方にも大切なノウハウがあるわけです。
5. きりべら23とは
麺の太さは「きりべら23」が標準です。「きりべら」とは厚みより切り幅が狭いことをいいます。「23」は一寸3.03センチを23本に切ることです。1本の切り幅が1.3ミリ程度になるわけです。生地の厚みがこの1.3ミリより厚ければ、きりべらとなります (普通はそうなるように延ばします)。
たとえば200グラムのそば粉を、この蕎麦打ち編の記載にしたがって延ばして折り畳んだ生地は、幅が125ミリ程度。したがって約90回できれば切りべら23になります。
私はきりべら30でも切ることが出来ますが、食感的にはやや太めの蕎麦が好きなので、通常はきりべら20程度に切っています。
6. 一人前ずつ容器に入れる
一人前 (通常はそば粉で100グラム分) を打ったら容器に移します。
切ったそばを持ち上げるには、包丁の先のテーパを使います。刃を向こう側に向けて切った麺の下に差し込み、少し持ち上げて手にとります。軽く打粉を落としてから乾かないようにポリ容器に入れます。
100グラムずつ二回にわけてポリ容器にはいった様子です。一人前ずつごく軽くひねりを入れると、あとで一人前ずつ取り出すのが楽です。
なお、すぐに茹でる場合はお盆やバットに並べてもかまいません。
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