返しの加熱条件の再検討(95度法)




初稿 030727


1.まえがき

今年前半をかけて行なった生返しの検討が一段落しましたので、懸案だった本がえしの加熱方法の再検討をはじめました。濃度や加熱方法の検討も合わせて再会しています。加熱に関しては加熱を打ち切る最高温度をどうするかが大きなポイントです。

ここ最近、かないまるでは返しの加熱上限温度として83度を採用してきました。80度〜90度で加熱打ち切りの実験の結果、醤油の風味と切れがバランス良く残る仕様として見いだしたもので、最低一週間、できれば二週間以上寝かすととても美味しくなります。

しかし「風味はともかく少し辛い」というご意見をいただくことがあります。図らずも先日のテイスティングで、従来のかないまる仕様の返しは生返しにかなり近いことがわかっています。それも三カ月以上ねかした生返しに似ています。それ自体は素晴らしいと思いますが、あまり本返しらしくないこともたしかで、辛いという人がいても不思議ではないわけです。

2.一般的な指標は「膜が切れた瞬間」

そこで83度法はひとまず完成として、より本返しらしい本返しを作って行こうと思います。見いだしたいのは加熱打ち切りのタイミングです。

よく言われる指標としては「醤油の表面に膜が張ってきて、その膜が切れた瞬間に火を落とす」というのがあります。

じつはかないまるの蕎麦ページも、ごく初期はこのような記載をしていました。ところが鍋を変えると膜の中央が割れずに一気に沸騰することがあり、こりゃだめだなとわかりました。大型の寸胴を使う本職に通用するかもしれませんが、素人ではそういう場合もありますが、失敗する場合もあるのです。

温度計を使う方法に変えたのはそのためですが、前後して低温志向に走ったため、80〜90度で検討して83度に至ったわけです (つまり90度よりは83度のほうが美味しいという結論です)。

3.もう一度プロの加熱を考える

さて、プロの加熱打ち切りが「膜が割れた瞬間」だとして、その温度はいくらぐらいなのでしょう。

プロの返し作りの現場で温度計を突っ込みたいところですが、残念ながらそういうわけには行きませんので、醤油1リットル程度で鍋をいろいろ変えて実験してみました。その結果として、

という感じでした。大きめの鍋で弱火でやると中央が割れますね。これが93度くらい。

アルミの手鍋で加熱すると対流が側面からあがるので中央は割れませんが、側面が開いて醤油が見えて来る温度が95度くらいでした。

また、これは某そば屋さんから、返しの煮詰め温度は95度、とも教わりました。

以上の観察と証言により、プロの伝統的な加熱打ち切り温度は93〜95度であると見てよさそうです。

4.醤油の膜は除去するのか

加熱温度とは関係ないですが、80度以上で張って来る黄金色の膜。これを除去するのかしないのかを、本職のそば屋さんがたくさん読んでいる某MLで質問しました。

その結果、基本的には膜は除去しないとのことでした。そのMLでいろいろ議論しましたが、結局この膜はアクではなくて、醤油を加熱するとできるアワにすぎないようです。

実はかえしをゆっくり加熱するという方法を日記のほうに書いてありますが(030716)、加熱がゆっくりのためか膜はほとんど張っていません。またこの16日に作ったかえしを再度加熱すると、90度まで加熱しても膜は張りません。

というわけで、膜は気泡であり、除去する必要なしという結論にいたっています。

5. 95度で加熱した返しでつゆを作る

さあ、ここまでわかったら早速実験です。二つほど試してみました。

ひとつは16日の返しを95度まで再加熱したもの。もう一つは、本膳・ザラメ・家醸本みりんを使って新たにかえしを作り、これを95度まで加熱しました。

前者を本枯れ節で節の11倍にとったダシでまず味見。その9倍にとったダシで延ばしてつゆにしてみました。9倍のダシによるつゆは、両方の返しで作りました。

6. どんな味だったか

味が濃くて甘い。これが第一印象です。新規も再加熱も同じ結果です。再加熱のほうが寝ている分濃厚な感じですが、基本は同じ感じ。一言でいえばそば屋のつゆに近いですね。いままで味わってきたキレや風味は消えていますが、同時に辛さも消えています。

これで私自身が不満かというと、そうでもありません。十分に美味しい。甘さを少し抑えたいかななんて気もしますが、まあ微調整範囲でしょう。このままでもいい。むしろ味醂を家醸ほんみりんから甘強に戻したい感じがしました。

7. 結論

今までの返しも十分美味しいんですか、「辛い」と言われることがあるのと、つゆが風味を主張するので、そのへんと蕎麦の相性はあったと思います。しばしば本返しと生返しで対比して語られることですが、どうやら本返しのなかでもこうしたちょっとした仕様の違いで、味は大きく変わるわけですね。

まあ好みの問題は依然としてあるとしても、とりあえず返しの加熱最終温度と味の関係がわかってきました。また一歩前進した感じです。


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