薄削り節を研究する





初稿 030511

蕎麦つゆのダシは厚削りでとるのが常識ですが、少量では難しい。というのが、つゆ編 (t02-2) に薄削り節のだしのとりかたを追加した理由です。

もともと薄削りで蕎麦つゆ用のダシをとるのは築地伏高さんのご提案により検討したものですが、どうせならということでスーパーや百貨店で入手できる節もかなり買い込んで検討してみました。

その結果、

1)少し濃いめにダシをとれば、薄削り節で普通にだしとりをしても、基本的なうま味は厚削りに負けない
2)だしをとった後、少し煮込む (再加熱する) と、さらに蕎麦つゆ向きになる。
3)厚削りと薄削りの違いよりは、原料の節自体の持ち味の違いのほうが、ダシの風味に支配的である

だいたいこんなことがわかりました。2)は以前からわかっていましたが、3)に比べれば全然小さい要素であることもわかりました。

そこでまず、1)と2)の成果を生かした濃厚なだしの取りかたを考えてみましたので公開します。加えて、3)についてのテイスティング結果もまとめましたのでご紹介しましょう。

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A. 二度出し+再加熱による濃厚ダシのとりかた

節を50グラム以上にするとだしの量が多くなり、蒸発量がコントロールしやすいので工夫の余地が出てきます。そこで、二度出しと再加熱による濃厚ダシのとりかたをご紹介します。おいしい蕎麦つゆができますよ。

1材料

薄削り節50グラム
水1リットル (仕上がり600cc)



材料は「つゆ編 (t02-2)」と同じ「近海鰹荒仕上節の削り節」です。画像は直径20センチのボウルに節を50グラムとったところです。フワフワでかなりの体積があります。

2.鍋に印をつける



この方法では、最後にダシを600ccまで煮詰めます。加熱の打ち切りがポイントですが、使う鍋でどこが600ccになるかをあらかじめ測っておくと便利です。

私は普段、割り箸に印を付けたものを差し込んで行っていますが、今回は撮影のためナベの内側にマジックインクで印を付けてみました。

3.湯を沸かし沸騰させる

では手順です。まず節の20倍、つまり1リットルの湯を沸かします。



沸騰したら30秒程度、中火で沸騰を続けます。カルキ、酸素を飛ばすこと、ミネラル分の結晶化が目的です。



湯が沸いたら火を止めて、計量カップ(耐熱)に湯を400cc移します。この湯は後で使いますが、最初から600ccと400ccの湯を別の鍋で沸かしてもかまいません。

4. 一番だしをとります

鍋に残った湯は600ccです。火を止めたまま鍋をガス台におき、そこにかつお節50グラムを投入します。



薄削りはカサが大きく沈みにくいので、菜箸またはアクとり網でつついて積極的に湯に浸して下さい。



節が湯に浸ったからガスに火をつけます。強火で加熱して沸騰したら中火に落として、さらに2分間加熱します。



少したつと少量の白い泡状のアクが出ると思います。20グラムでは手のほどこしようがありませんが、50グラムならある程度取り除けます。画像でアクとり網に乗っている白い泡がアクです (荒節や混合節では土色のアクが出ます)。



2分たったら火を止めて、伏高のダシ濾しシートを四つに折って上げザルに敷き、ダシを濾します。



薄削りはダシガラの中にダシ汁がかなり残りますので、菜箸で押しつけてよく絞ります。

5.二番だしをとります

このダシガラには、実はダシが60〜70グラムも残っています。そこでもう一度湯に放って節を洗い、うま味を全部回収します。



計量カップに残した400ccの湯を鍋にもどし、ダシガラを入れ、強火で加熱しながら、菜箸で広げます (ダシ濾しシートは洗わずにそのままザルの上に広げておきます)。



沸騰してきたら火を止め、再びダシ濾しシートで濾します。このとき二番だしは濾しながら一番だしに混ぜてしまいます。二回だしをとると言うと面倒に感ずるかもしれませんが、ダシをあわせてしまうので実際にやってみるとそんなに面倒ではないと思います。

以上で取れるダシは合計700cc程度になると思います。


6.ダシを煮込む

ここまでは普通のダシのとりかたと本質的には同じですが、まだ厚削りには負けるところがあります。それは深みです。香りが蕎麦つゆの風味を浅くするといってもいいでしょう。

50グラムから700ccのだしはけっして濃度的に薄くはないのですが、これをさらに10%ほど煮詰めると、濃度的に濃くなると同時に、荒い香りが飛び、さらに熱化学変化によるものなのか旨みが深くなるようです。



まず強火で加熱します。沸騰が始まると、その沸き上がりの先端に白い泡状のアクが見えますのでアクとり網ですくって捨てます。

アクの供給源がないのでアクはすぐに出なくなります。なので、2〜3回アクをすくったら中火にしてそのまま加熱を続けます。鍋ブタはとっておいてかまいません。




水分が蒸発して600ccになったら火を止めて出来上がりです。煮詰めるといっても何十分も加熱するわけではありません。実際は一煮立ちという感じです。

注意点としてはダシが沸騰すると気泡により水かさが上がり、最初にマークしておいたより液面が上がるということです。



特にテフロン加工の鍋は液面上昇が大きく、マークより数ミリも高くなりますので要注意。何度か火を落として確認してみてください。



さあ、琥珀色の上品なダシが取れました。ゆったりしたやわらかい香りがします。厚削りよりは材料を10%〜20%ほど多めに使っていることになりますが、短時間で作るダシとしてはとてもおいしいですよ。


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B. 節の材料による違いを研究する

さて、ここでご紹介した「近海鰹荒仕上節の削り節」のダシはとてもおいしいのですが、本枯鰹節厚削りとは風味に違いがあります。なので、材料による違い、もっと端的には、同じ原料節で厚削りと薄削りの違いを、ぜひ知りたいと思うに至りました。

もちろん自分で仕上げ節を削ればいいんですが、厚削りなんて逆立ちしてもできません。節屋さんだって厚削りは電動かんなで削っているそうですから。



そこで希望を伏高さんにお伝えしたところ、本枯鰹節厚削り用の鰹節で薄削りを作ってくださいました (これは研究用で商品ではありませんので、これを読んで伏高さんに注文メールを出さないでくださいね)。



節のアップで。左が本来は厚削りにする本枯れ節の原料による薄削り (試作品)。右が商品の近海鰹荒仕上節の削り節です。

商品の近海鰹荒仕上節の削り節がかなり固めの乾いた節であるのに対して、試作品は、やや柔らかめの手触りでした (画像でもそんな感じに見えると思います)。このへんはナマモノにつきもののばらつき (たとえば節の枯れ具合など) なのか、原料の平均的な素性なのかはわかりません。

で、さっそくこの二つの材料を使ってダシをとり比較してみました。また厚削りでもだしをとりなおし、合計三者で比較しました。厚削りはいつもどおり節の14倍のダシ (重量比で)、薄削りは節の12倍に仕上げてあります。

なおだし以外の条件は可能な限り揃えてあります。つまり同じかえしを使いグラム管理で混合、加熱、冷却の条件もそろえてあります。
使ったかえしは「はつかり醤油、和三盆、家醸ほんみりん」による本返し(80日保存)で、生返しのテイスティング(j05-3)で比較用に使っている本返しです。

味見に使った蕎麦は、「高山製粉の白樺」と、柿沼製粉の「青つくば (海外産の玄蕎麦を使った並粉)」を使って生粉打ちしました。前者は相当に高貴な香りの蕎麦。後者はごく普通のそば屋さんクラスの蕎麦となります。これに加えて、最後にそば湯での味見もしました。

評価を書き易くするために記号を付けておきましょう。

A)近海鰹荒仕上節の削り節
B)厚削りの材料による薄削り (試作品)
C)厚削り

・まず白樺での結果です。

B)とC)がかなり近い感じでした。薄削りB) のほうがつゆがわずかに辛く感じるのと、節の香りを若干強く感じ点数が低いですが、風味は厚削りC)とかなり似ています。うま味感的には同じくらいでしょうか。濃度的に薄いC)が、濃いB)と互角の旨みなのは、さすが厚削りです。

とまあ、差は述べてみたものの、この程度の違いは節を買うたびに違う範囲内のような気もします。そういう意味では、ほぼ同等といってもいいでしょう。

これに対してA)は明らかに別系統という感じです。具体的には、まずほんの若干ですがお魚のにおいを感じます。また、燻蒸工程があるのだと思いますがその香りも感じます。ダシの旨みの強さ的にはそんなに違わないと思いますが、白樺というきわめて高貴な香りをもつ蕎麦と合わせると、完全な枯れ節ではないのを感ずるといったところでしょうか。

ただしこれはかなりうるさい世界の比較論であって、A)も実は凄くおいしいのです。実際、スーパーの厚削りでダシをとるよりははるかにおいしいつゆになっています。

・つぎに青つくばです。

海外玄蕎麦を使ったそば粉で、蕎麦の香りがかなり強く、若干エグミの領域に入っている蕎麦です。内層粉をのぞいてあるので、やや柔らかい歯触りも独特です。

結果ですが、蕎麦の香りが強いせいか、白樺では僅差だったB)とC)の距離がむしろ離れてしまい、厚削りC)が有利になりました。C)が何事も無かったように蕎麦に絡んでくれるのにたいして、薄削りのB)はそば粉のクセを若干強調する感じです。つまり、厚削りの勝ち。

A)は面白いですね。負けてません。蕎麦の風味と関係なく、燻蒸香と魚臭さが「私、おいしいでしょう」と主張します。つまりこれはこれでおいしい。「蕎麦はともかく、私は私で頑張る」、ダシがそう言っているようです。

・最後にそば湯

これが面白いことに、A)が一番おいしく感じました。それもダントツにおいしかったです。コクがあるし風味もいい。B)とC)は風味が足らない感じ。B)とC)は大差ないですが、どちらかというとB)が上の感じ。

蕎麦つゆは蕎麦の風味を邪魔せず蕎麦と一体融和して味をなすことが大切だと思いますが、そば湯はそうではなくて、吸い物に近い性格がありダシが風味を演出しないとおいしくないのかもません。「近海鰹荒仕上節の削り節」というのは、そういう役割をこなす素養に長けていると思いました。

結論としては、厚削りと薄削りの違いは、もちろんあって、それは第一にダシのとり易さ。つぎに風味の違いとなりますが、風味の違いはそんなに大きなものではなく、材料の違いのほうがずっと支配的だとわかりました。

同時に、今回のB)の節は非売品ですが、もし商品になるのなら蕎麦つゆを手軽に作りたい家庭向けとしては理想的と言えるかもしれませんね。

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なお、この味見はつゆを作って半日で行いましたが、実はA)は二日ほどで大化けすることがわかっています。化けてどうなるかというと、子供のころ近所のそば屋さんからとった出前の蕎麦についていた蕎麦つゆそっくりの風味になるんです。

多分そのそば屋さんは同じような節からだしをとっていたのでしょうね。なんかとてもなつかしい感じがするこの節は、個人的に点数が高いんですが、これは偏見というものかもしれません(^^;)

それとそば湯が非常においしかったので、近海鰹荒仕上節の削り節は温かい蕎麦用の甘汁に向くかもしれないという予感がしてきました。昆布も合わせてみたいですね。

う〜ん。なんか楽しみになってきました。

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というわけで、今回はほんとに勉強になりました。今回の厚削り用原料による薄削りの試作品の節は、伏高さんのご好意でご提供いただいたものですが、心からお礼を申し上げます。ありがとうございました。



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