生がえしの検討(5)

テイスティング本番とまとめ




初稿 030607


ではテイスティング本番です。

生返し13種。本返し6種。全部を混合したもの1種。さらにテスターのりょーさん (パソコン通信仲間) が、当日持参したものがひとつ追加になり、合計21種類がそろいました。評価の過程のなかでいくつかは評価を割愛しましたが、用意した要素はすべて評価することができました。



テイスティングの様子です。左が私、右がりょーさんです。ちなみに、前のページまでで「友人のかえし」としていた友人とは、このりょーさんのことです。

テイスティングは目の前に同じそばチョコを4個置き、その前に蕎麦つゆの入ったペットボトルをおいて、気が済むまで味をみます。まずつゆ単体をなめて味見。その後、実際にそばにつけてそばを食べる味見をしました。二人とも納得が行き、メモを取ってからディスカスをしますが、ディスカスの内容をメモに追記はしても、自分の印象は書き換えはしないようにして、最初の印象は残すようにしています。



こちらは、同じくパソコン通信仲間のドド子さん (右) と、そのだんなさんです。ドド子さんは現在そば打ち練習中で、今回打ちかたを見てほしいということでしたが、ひとしきりそばを打って、そのまま味見に参加していただきました…。

と書きたいところですが、最初の醤油の味見で「わかんな〜い」「全部おいしー」ということでギブアップ。もっぱら、そばの味を楽しんでいただきました (なお冒頭の私とりょーさんの画像は、だんなさんの撮影です)。


1.得点について

以下、各つゆには得点を与えました。この点数付けは私とりょーさんがかえしの順位を意識しやすくするために付けたものです。以下には私の点数を公開しますが、りょーさんの点数も非常に近いものでした。

しかし実際は、ドド子さんご夫妻は、たとえば3点と9点の差でもそんなに大きな差と感じない程度のものです。というのも、今回はダシの強さと甘みの強さがそろえてあるので、普通の方が味の違いを意識する部分は差がなく、そうしたなかでのテイスティングであるといえます。

今回用意したかえしは、本返しのほうに砂糖の強いものが混ざっていましたが (AHとAKH) 、今回テイスティングからは外しました。味見をしているうちに糖度の違いは誤解を招くと思ったからです。

というわけで、相当針小棒大なマニアックな味見ではあるものの、誤解を招く条件違いは限りなく排除したなかでの評価であるとご理解ください。


2.手順

味見の手順としては、醤油違い、砂糖違い、みりん違い、その他の違い、というように小テーマごとに分類してテイスティングしていきました。冒頭の画像ではペットボトルが4本乗っていますが、これは醤油違いのテイスティングをしている様子です。

つまり一回のテイスティングでは2〜4種を比較し、相対的に感想を記録し、なおかつ参考に点数を付けていきました。

そば粉は白樺、常陸秋そば(柿沼製粉)など、数種類使いました。直前に仲間うちで話題になった某そば屋のそば粉、みたいなのも打ちました。そば粉は最高で500グラム。全部で1300グラム打ちましたが、一種類で全部のテストをできないので、テーマごとに私の方でヤマカンで適当にそばを変えて茹でました。たとえば醤油は白樺、砂糖は常陸秋そば、といった具合です。

そば粉との相性まで考え始めると、厳密にはそば粉と返しもマトリクスでテストをする必要がありますが、それは無理なので、せめていろいろなそばを適宜使って行こうというにしました。

ただし今回は、そば粉は基本的にクセの少ないものだけを使っていることもあって、結果はそば粉にはあまり左右されていないと思います。


3.結果

では結果を公開します。

3.1.醤油違い。

A,B,K,Lを比較しました。いずれも生返しで、砂糖はザラメ。みりんは昔仕込みです。

A本膳(6点)
つゆだけなめて美味しいが、ややダシが勝っている感じがしました。旨みもたいへんに強いのですが、なんか上品な料理を食べている感じで、そばと無関係にうまみだけが舌にのこったりします。一体感がないような感じ。

Bはつかり(7点)
少し辛いのと、すこしカラメルっぼい香りを感じました。つまり素材のくせが少し残った感じ。ただ、Aよりはそばに絡んで、そばをおいしく感じさせます。

Kそば膳(9点)
つゆをなめた感じでは、旨みがつよいが香りが少なくて、さあどうだろうという感じ。ところがそばに付けて食べてうなってしまいました。その旨みがそばと合っているのか、口のなかに柔らかい味が広がり実にウマイ。そば膳恐るべしという感じでした。さすがそば用にチューニングされた醤油の実力を感じます。

L特選丸大豆(3点)
少し水っぽく感じました。旨みが足らない感じ。つゆでなめると甘みが舌に残ってしまいます。そばに付けるといささか弱い感じ。

【結論】
そば膳がおいしかったですね。そば膳は「そばつゆ専用に作られた」とされていますが、なるほどという感じでした。恐れ入りました。


3.2.砂糖違い

A(ザラメ)を基準とします。醤油は本膳。みりんは昔仕込みです(6点)。

C和三盆(5点)
つゆをなめると、きわめていろいろな味が舌に乗り、複雑な旨みを感じます。ただし旨みのまとまりが悪く、そばの風味を邪魔するものがあります。特につゆを少なめに付けた時にそう感じます。そばより複雑な甘みに気持ちが流れてしまうのです。なお、つゆをどっぷりと付けると醤油の辛味が勝ってるためか、そのほうがおいしく感じました。

Jきび砂糖(4点)
つゆだけだと比較的美味しい。やや雑味がありますが、そんなに大きな欠点もない。しかしそばに付けるとかなり期待ハズレ。そばに負けてしまいました。

【結論】
以前三温糖をためした時にも感じましたが、蕎麦つゆには純度の高い砂糖が向くようです。純度の低い砂糖は、高価な和三盆ですら違和感のある味を作ってしまいます。というわけでザラメ (カップ印) の勝利でした。

3.3.みりん違い

Aザラメ・本膳・昔仕込み(6点)を基準とします。

Dザラメ・本膳・家醸ほんみりん(8.5点)
これは美味しい。つゆでなめても美味しいが、そばにつけてそばを邪魔しません。昔仕込みもけっして悪くないですが、そばを美味しいなと感じさせる力が家醸のほうが強いと思いました。

Gザラメ・はつかり・家醸本みりん(8点)
家醸本みりんが成績がいいのでGも見てみました。するとやはり美味しい、という結果でした。

ではDの砂糖違いはどうか、ということでFも追試です。

F和三盆・はつかり・家醸本みりん(5点)
結果は5点でした。和三盆ではやはり力が足りません。かなりどっぷりとつゆを付けないとおいしく感じないのです。

【結論】
家醸本みりんは高橋名人がえらんだみりんとして有名ですが、なるほどねえ、という感じでした。実はこのみりんは、今まで使った福来純や昔仕込みとおおきな違いがあります。それはみりんだけなめても全然おいしくないということです。

一般にみりんのよさを喧伝するために「なめても美味しいからスゴイ」という言い方がありますね。その言い方が家醸本みりんにはいえません。みりんをなめても全然おいしくないんです。かおりなんかむしろおいしくありません。

しかし蕎麦つゆにした時の実力はスゴイですね。このみりん。今後定番化しそうです。


3.4.生返しと本返しの違い

j53で本返しと生返しの違いは連続テイスティングしてきましたが、途中で本返しが疲れてしまったと感じました。たしかに生返しは本返しを追い抜きましたが、新鮮な本返しと110日保存の生返しの対決ではどうなるのか。それを比較しました。

F 本膳・和三盆・家醸本みりんの生返し/110日保存(5.5点)
FH 本膳・和三盆・家醸本みりんの本返し/3日保存(5点)

6月2日にこの目的で仕込みをしましたが、ザラメが切れていたので和三盆で仕込みました。したがってFとFHでの比較となりました。

結果ですが、全体として大きな差はありません。生返しのほうがわずかに力があると感ずる程度です。私は一応僅差で生返しを勝ちとしましたが、力があるのは硬いともいえますのでなんともいえません。ちなみにりょーさんは「同点」としたそうで、数日しか経っていない本返しが、三カ月以上寝ていた生返しと同等だというのは、少々驚きだったそうです。

私は今回は僅差で生返しの勝ちですが、今回の本返しは3日しか寝ていない時点でつゆにしたので、あと一週間寝かせれば本返しのカドがとれて、本返しの持ち味が生きてきます。「持ち味はちがうが、点数は同点」という結果に私もなるでしょう。


【結論】
温度管理をきちんとした本返しは、何カ月も寝かした生返しと同等であるといえます。もちろん持ち味はちがうと思いますが、本返しが生返しよりランク落ちするということは全くないことがわかりました。

なお、砂糖が和三盆なので、ザラメを使ったかえしで追試をしておくつもりです。


3.5.メープルシロップとトレハオース

では砂糖以外の甘味料ではどういうつゆになるか。まずはりょーさんが仕込んだメープルシロップです。基準はGとなります。

Gザラメ・はつかり・家醸本みりん(8点)
RHメープルシロップ・はつかり・家醸本みりん(3点)

結果は全然だめでした。RHは水っぽくておいしくありませんでした。醤油と蔗糖が反応してできるはずの旨みが一個まるですっかりないような感じです。

次にトレハオース。これはFHをベースに、砂糖の半量をトレハオースに変えたものです(甘みはそろえてあります)。

FH 本膳・和三盆・家醸本みりんの本返し(5点)
FTH 上記和三盆を半分に減らし、トレハオースで代替(4点)

これは砂糖が半分あるのでメープルシロップほどは悲惨ではありませんでしたが、風味が足らないし、どこか細い感じがして、美味しいとは言い難い感じでした。

実は、このトレハのつゆを作った時、FHでは加熱して83〜85度に達した時に、いつもどおりつゆの芳醇な香りが漂ってきたのに対して、FTHではその香りが弱くかんじられました。なにか旨み、または香りを構成する化合物の生成が少ない感じでした。

したがって蕎麦つゆの旨みを構成する成分生成には、蔗糖は欠かせないといってよいかもしれませんね。

【結論】
メープルシュガーもトレハオースも、砂糖 (蔗糖) には勝てなかった。無理して目先のちがう甘味料を使う意味は希薄である。

3.6.余興その1

今回使った、蔗糖系の返しをすべて混ぜたものを作りましたので、これを一応味見しました。

結果ですが、なんとも美味しい。いやー、困ったもんですね。複雑なものは美味しいということでしょう。二度と作れないつゆができてしまいました。これは私が一週間楽しんで終わりました。

3.7.余興その2

今回りょーさんが「余興でひとつ」と、つゆをひとつ持参して下さったので、最後にテイスティング。

結果は「!?」。何じゃこりゃという感じ。おいしくないし、ちょっと受け付けがたい癖があります。一言でいえばまずい。ドド子さんご夫妻も「これはわかる」。

種明かし。実は市販の蕎麦つゆなんだそうです。ラベルを見せていただきましたが、某そば屋 (名店です) の当主の言葉が掲げてある。市販のそばつゆで当家つゆに一番近い、みたいなことが書いてあります。いやー、書かせちゃいましたね。たまげました。


4.結言

余興は別として、蕎麦つゆを19種類作って味見をしました。結論を簡単にまとめると、

こんなところでしょうか。

4.1.みりんについて

まずみりん。これはびっくりしました。さすが高橋名人がえらんだみりんですね。文中にも書きましたが、家醸はなめてもおいしくないみりんですが、今回の結果から、みりんを飲んで美味しいのと調味料としての実力は関係ないといえると思います。

4.2.砂糖について

砂糖については、何といってもザラメですね。すでに過去の検討でもザラメは好成績です。今回もそれが確認されました。和三盆の深い旨みの広がりにはびっくりしましたが、旨みが整理されないで発散してしまう感じでした。結局、ザラメに和三盆を隠し味で混ぜて使うのはいいかもしれないと思いました。今度試してみましょう。

4.3.新甘味料について

メープルやトレハは期待ハズレでした。今回ザラメが一番おいしかったこと、加熱中にトレハは香りが弱かったことを踏まえると、つゆの芳醇な旨みと香りは、醤油と蔗糖が結合してできるものなのではないかと思いました。メープルやトレハはいずれも糖ですが、蔗糖ではないので醤油との化合物が違う、あるいはできないのかもしれません。

4.4.醤油について

醤油はストレートに「そば膳恐るべし」でした。はつかりや本膳にもいいところがありますが、やはりそばつゆ専用にチューニングされた凄さを感じます。

本膳はやはりかけ醤油としておかねをかけており、その一番の特徴が、生醤油の段階でカドを徹底的にとってあるというところにあると思います。これがつゆにするとカドが落ちすぎてそば膳に負ける要因になるのでしょう。旨みも凄く強いんですが、蕎麦つゆには必要のない旨みが多いような感じもします。

実は私は、昨年の後半はそば膳に本膳を混ぜて使っていましたが、基本的にそば膳の強さを活かしつつ、本膳の旨みを合わせたいからです。でも今回の結論を踏まえて、またしばらくそば膳一本に戻してみようと思いました。

はつかりはいい醤油ですね。そば屋さんでも使っているところがあるようですが、欠点は特になく、そばつゆとしてそばの旨みを引き立てますのでファンがつくでしょう。

4.5.生返しと本返しについて

生返しと本返しの違いについては、FとFHの差は本当に小さかったです。実は今回の本膳はやや色が薄くて味も上品で、生返しの時のものとは味が違うんです。同じロットの醤油で作れば、また結果が違うかもしれません。

でも本返しと生返しの差は、逆に醤油のロットの差程度しか変わらないともいえます。ちがう醤油を使ったほどには変わらないといえるのではないでしょうか。

いずれにしても返しやつゆを作るのに、温度管理をしないのは論外であるという気持ちをまた新たにしました。逆に温度管理をきちんとすれば、生返しの存在価値は本のわずかな持ち味の違いにのみ残るといえるのかもしれません。

考えてみると、そばの指導書に本返しを温度管理をして作らせている本は見たことがありません。温度管理の重要性が説かれていないわけです。これでは本返しは不当な評価を受け易いと言ってよいでしょう。

またいままでの検討で私の本返しは加熱サイクルは3回になっていましたが、醤油の温度が83度になってからの総加熱時間は数分でした。

これに対して今回は、醤油を加熱して83度になったら砂糖を投入するところまでは同じですが、投入後すぐには加熱せず、5分待ってから加熱しています。再び加熱して83度になってからみりんを投入してからも同じ。つまり83度弱の温度にいる時間がいつもよりたっぷりととってあるわけです。

また、いままでは糖分を入れてからの加熱で表面に浮かんだ褐色の膜をすくいとって捨てていましたが、今回は5分放置中にこの膜が溶け込んでしまうため、結局これを除去はしなかったため、素材の成分が全部返しに溶け込んでしまいました。

考えてみると生返しでは膜が張ったり、それを除去したりということはありませんので、そういう意味でも生返しと遜色のない本返しができたのかなと思います。

この要素はもう一度検証してから、つゆ遍の作り方の記載を変更しようと思います。

5.謝辞

というわけで、今回の検討は非常に面白く、また役に立ちました。ご協力いただいたりょーさん、ドド子さん、ドド子さんの旦那さんに深く感謝いたします。



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