生がえしの検討(3)

途中経過テイスティング
( 6月1日終了)


更新 030601
初稿 030301


さあ、ここから三カ月間、パイロットかえしの変化を楽しむことにします。パイロットはH仕様 ( はつかり:和三盆:家醸=1000cc:190g:230g ) で、本返し (HH) と生返し (HN) になっています。

随時つゆにして味の変化をみます。だしをとって冷ましてからかえしと混ぜて、83度まで加熱して、翌日使います。日付は味見をした日で、つゆにしたのはその前日です。


3月1日 (13日経過)
仕込みからほぼ二週間経過。北米出張から帰国したら、本がえしが使えるようになる日数が経過しているので、さっそくつゆにしてみました。だしは古川製粉から購入した本枯れ節 50グラムで600ccのだしをとって使いました。

・本返し
Hの仕様は初めてのものですが、基本的になかなかおいしいつゆができました。甘味もほぼOKで、この素材の混合比としてはいいセンだと思います。醤油のカドも完全にとれていますし、風味もあまり飛び出したところはありません。
不満をいえば、やや薄口なことで、つゆを単独で味見するとかなりいいんですが、そばつゆとしては、やや強さに欠けるようです。今回は江戸東京そばの会の常陸秋そばと、高山製粉の縄文をいただきました。で、縄文ではあまり不満はありませんが、常陸秋そばでは少し弱い感じでした。

・生返し
つゆを単独で含んでみて、醤油の辛さと香りがまだ相当残っていました。みりんの存在感はあまり強く感じませんでしたが、かつお節の風味はやや遊離して感じました。うま味はそんなに強く感じません。これはまだ醤油の存在感が強すぎるからでしょう。
そばに付けてみても、たしかに「つゆ」にはなっていますが、どこか「醤油」をつけている感じも残っていて、つゆとしてはマダマダという感じでした。
ただ、辛さ自体はなかなかいいもので、そばつゆのキレという意味では、完成した姿の片鱗が早くも見えている感じ。熟成が楽しみです。


3月16日 (28日経過)
2月は28日しかないので、一カ月=28日経過しました。あと2〜3日待ってもいいんですが、欧州出張から帰国して時差ぼけで眠れないので、だしをとってつゆにしてみました。だしは本枯れ節ですが、今回は築地伏高のものを使いました (この節の詳細は今日付けの日記を参照してください)。

・生返し
醤油のカドがだいたいとれて、醤油の生っぽい感じは消えてきました。そろそろつゆらしくなってきたかなという感じ。ただし素材のうま味の融合がまだ進んでいない感じで、砂糖やみりんの甘味、醤油のうま味、だしのうま味などが単独で残っている感じで、つゆとして一体の良さはマダマダですね。「もっとうまいはずだ」という感じ。ただし生がえしらしい力強い感じはなかなかいいもので、仕上がりが楽しみです。

・本返し
こちらは仕上がっちゃいましたね。コクというか深みがでてきました。前回、強めの味の蕎麦に付けるとやや弱い(薄い)印象があり、それは今回も変わりませんが、今回はコクと、若干甘味も強く感ずるので、満足感的なものがあります。今回はだしが伏高ですが、マルサヤの本枯れだとだしがもっと濃い感じなので、さらにいいでしょう。ただ、いままでの検討で本返しは一カ月経過後はあまり味が向上しないことと、一方で生返しがかなりよくなってきていますので、この素材の組み合わせだと最終的には生返しに追い抜かれそうです。

だとすると、この検討で仕込んだ生返し群と比較することになる本返しとしては、このH仕様はやや力が不足のようです。最終テイスティングの一カ月前くらいになったら、いくつかの仕様に絞って本返しをもう少し仕込んでみることにしましょう。


4月13日 (ほぼ2カ月経過)
ほぼ2カ月経過しました。まだ数日早いですが、土曜日に仕込み日曜日にテイスティングしました。湯煎は一回です。

今回もダシは築地伏高の本枯れ節で、前回と同じです。蕎麦は高山製粉の白樺と、石碾屋さんの新しい「抜き」です (この「抜き」は、そば粉の状態で一カ月冷凍保存したものです)。石碾屋さんのそば粉については、粗挽きそば粉編を参照してください。

・生返し
前回よりはエージングが進みましたが、「白樺」ではまだまだ辛味が強いし、醤油の存在がはっきりします。つまり醤油臭い。でも塩辛さについては「辛い」と閉口するほどではなくなってきています。全体のバランスがだんだんと「つゆ」に近づいて行きますね。でもちょっとエージングが遅いかな。
石碾屋さんの「抜き」でもちょっと醤油臭いですね。「白樺」よりはマッチングがとれていますが、そば粉の風味をやや邪魔します。

・本返し
こちらは一カ月時点で「仕上がった」と書きましたが、今回はさらにエージングが進み味が丸くなっています。ただ、少し弱いかなあ…。
「白樺」ではつゆの存在感が消えて蕎麦の風味がかなり楽しめる感じ。つまりOK。
「抜き」では蕎麦への絡みがやや弱くて力が足りません。まあもともと「抜き」は生返しでチューニングされたそば粉です。最近玄蕎麦の品種を変えたせいか本返しでも蕎麦膳/本膳ベースでやや濃いめにつゆを作れば負けませんが、はつかりベースで2カ月はちょっと相手が悪い感じですね。


(4月16日 追記)
生返しの問題点がひとつ明らかになりました。どうも腐敗しやすいようです。

通常つゆは冷蔵庫に入れておくんですが、今回は13日に作ったつゆをうっかりしてリビングに出しっぱなしにしてしまいました。いけないと思い冷蔵庫にしまったのが昨日15日。丸二日、暖房のはいったリビングに放置されたわけです。

で、今朝蕎麦を打ったので、三日たったつゆの味をみようと思いましたが、じゃん、生返しのつゆのほうが酸っぱくなっていました。本返しが (私の現在の作り方では) 都合4回加熱されるのに対して、生返しはたった一回しか加熱しないので、雑菌量が多いのでしょうね。

本返しのほうは全く問題なく、むしろ味が整っています。私はこのくらい日がたったつゆも分厚い感じがして好きなんですが、生返しはつゆにしてからの熟成は期待できなそうです。

対策としては、つゆを作る時に85度を保つ時間を長くするか、2〜3分おきに85度まで再加熱するサイクルを入れる。かな。加熱による味の変成と殺菌を期待するわけです。

次回は加熱方法を変えて、生返しの味がどう変わるか見てみようと思います。


5月10日
3カ月に一週間早いですが、今月は中旬以後が多忙になりそうなので、ここでテイスティングをやりました。今回も節は築地伏高の本枯れ節。そば粉は、今回昼飯のそばを多めに打つ必要があり、手持ちのそば粉の関係で、常陸秋そばに縄文と青つくばをブレンドして打ちました。

さて今回は、前回出た「生返しのつゆを作る時に再加熱処理を行う」という課題を実行してみました。従来一回だけ加熱してやめていたものを、少し時間をおいて再加熱を加えることで、高温維持による熱化学反応促進と殺菌を期待するわけです。本来は85度を恒温維持したいところですが、ガス火だと恒温というのは難しいので、一定時間ごとの再加熱という方法にしたわけです。

再加熱仕様は下記としました。

1)だしと生返しを合わせて、中火で85度まで加熱する
2)ガス台上で5分間放置徐冷する(79度程度まで温度が下がりました)
3)中火で85度まで再加熱する
4)再び5分間放置する
5)中火で85度まで再度、再加熱する
6)そのまま50度以下になるまで放置する

全過程で30分程度かかりますが、鍋蓋を併用してなるべくつゆが煮詰まることがないようにしました。また1)の段階で700cc程度を作り、2)の段階でPETボトルに200cc程度抜き取り、一回だけ加熱する従来仕様のサンプルとしました。

このほかに本返しのつゆも作りますが、ダシは一度にとったものから取り分けて作っています。

というわけで、今回は3種類のつゆをテイスティングしました。

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結果です。

・本返し
前々回(一カ月)でほぼ仕上がり、前回でさらに円熟した感じでしたが、今回はやや劣化に向かったと言えるかもしれません。雑身があるとか、異臭が加わったとかいう明らかな劣化ではないのですが、従来あったはずの風味が欠落してきたという感じでしょうか。一言で言うと口の中全体を旨みが満たしてくれません。前回「弱くなったかも」と書きましたが、それがさらに弱くなった感じでしょうか。
というわけで、本返しは (返しの引き継ぎなどは別として) 基本的には作ってから3カ月以内で使い切った方がよさそうだと感じました。

・生返し(加熱一回)
従来仕様の生返しです。前回よりぐっと丸くなりました。なかなかおいしいです。まだ若干単調な辛味を感じますが、そばへの絡み、旨みを濃く感ずるようになってきていて、総合的には本返しよりおいしくなって来ていると思います。
ただまあ本返しのほうがそろそろ劣化フェーズですので、単純に「生返しよりおいしい」とは言い難く、多分この蕎麦つゆでは、一番おいしい時期の本返しを超えてはいないと思います。

・生返し(加熱三回)
これは驚きました。とてもおいしい。今回は作ってから半日しか経たずにテイスティングしましたが、湯煎や寝かしをしてある程度熟成させたつゆのように、蕎麦よく絡んで口の中においしさが広がります。
さらに、つゆにしてから寝かすとやや厚ぼったい感じになりやすいものですが、そうしたことがなく、あくまでフレッシュなつゆとして旨みが丸くなっています。
このつゆは、おそらく本返しの一番おいしい時期 (仕込み後1〜2カ月) のおいしさを超えていると思います。

というわけで、生返しは加熱を数回繰り返して、85度弱に温度を維持する時間を長くする加熱方法が必要だということがわかりました。

実は本返しでもこのような繰り返し加熱をしたこともありますが、手間なわりに変化は小さく、湯煎を一回やると差はさらに縮まるので採用してきませんでした。しかし生返しでは、変化が歴然としている上、つゆにしてからの腐敗 (前回参照) を抑えることも期待できるので、再加熱処理は必須と考えた方がよさそうです。

腐敗については、このまま常温放置実験をしてみるつもりです。


5月16日

出張まで10日。もう少し忙しいつもりが、思ったより余裕があったので、正味三カ月での味見をしました。生返しは三回加熱のみ。本返しは一回加熱です。

結論からいって10日の味見とほとんど変化はありませんでした。つまり、三回加熱の生返しのほうが美味しく感じました。


6月1日

で、この味見は三カ月時点の味を確定させるために行ったわけですが、これで比較は最後となりました。

というのも、5月31日に出張から帰国して返しを観察したところ、生返しのほうのボトルの液面線にかすかに茶色の泡がついています。発酵開始のサインですね。香りもほんのわずかに酒臭い感じ。

この異常は16日の時点では全く兆候すらありませんでしたから、この半月で急に発酵が進んだことになります。それも出張中の数日間は台風の接近もあり気温が高かったそうで、ここでぐっと細菌数が増えたんでしょう。翌6月1日には、明らかに褐色の泡が浮かんでいました。たった一日でさらに急激に腐敗が進んだわけですね。臭いも明らかに酒臭くなっています。

というわけで、生返しと本返しの長期連続比較はここで終了です

結論としては、

  1. )生返しが本返しを抜くには、大略2カ月以上を要する。
  2. )生返しをつゆにのばすときは、比較的長時間80度以上に保つと美味しい (この加熱は、三回加熱法で実現できるが、湯煎でも同様の効果があると思われる)。
  3. )二カ月以上寝かし、丁寧に加熱した生返しのつゆは、本返しのつゆよりおいしい。
  4. )生返しの開栓保存は冬場からはじめて三カ月が限度。夏場は冷蔵が必要と思われる。

こんなところですね。三回加熱を思いついたのは最近ですが、返しが若いうちでも三回加熱をすれば、おいしく使えるのかもしれません。今後の課題となります。

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さて、連続比較用の返しは、散々開栓状態でいじくりまわしたので三カ月で腐敗してしまいましたが、テイスティング用に仕込んだ13種類の生返し(H仕様を含みます)は、密栓してあるので健在です。一応今日、冷蔵庫に全部移しましたが、野菜室がいっぱいになってしまいました。

この13種類の返しと、友人から届いたもう一つの返し、さらに3月16日に仕込んだ二つの本返し。つまり「本膳とそば膳を混合した常用本返し」と、「常用の砂糖みりん混合比で醤油を本膳のみにしたもの」の2点。さらにH仕様の本返し(三カ月経過)も生きていますので、本返しが合計3点あり、合計17種類が用意できました。

全部味見するかどうかわかりませんが、結果を乞ご期待です。



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