蕎麦打ちに向く水の話
初稿 030320
1.水の硬度と蕎麦打ちの関係
欧州で蕎麦を打った人の話では、水によっては全然蕎麦がつながらないそうです。欧州の水は非常に硬度が高いからだそうです。
たしかに欧州の水が硬いのは出張に出るとよく経験します。出張に出るとホテルのミネラルウォーターが高いので、スーパーに買い物に出ることができないときはわたしは湯冷ましを作ります。炭酸水素塩が分解して沈殿するので、硬度がかなり下がるからです。沈殿しない成分もありますから硬度がゼロになるわけではありませんが、とりあえず飲めるようになります。
ビックリしたのは先週出張したイタリアのホテルの水で、湯冷ましにしたらポットの底に砂のような結晶がびっしりと沈殿しました。ものすごい硬度なんですね。欧州では一般に飲用水はボトル詰めのミネラルウォーターで、水道水は飲みませんが、これは当然だなと思います。
さて、硬度が高すぎると蕎麦がつながらない理由は、タンパク質が固くなってしまうからだそうです。「硬度の高い水で打つとコシが出る」とネット上にも記載を見つけることができますが、たしかに水の硬度と蕎麦のコシは相関を感じます。
これがコシがあるうちはいいですが、度が過ぎるとつながらなくなるわけです。ですから一言でいうと生粉打ちの蕎麦打ちには、つながりを阻害しない軟水が向きます。
2.日本の水道水の硬度
日本の水道は通常は軟水です。ゴックン・ドット・コムにある硬度のデータを拝見しても、突出した高硬度の水はありません。つまり公営水道の水道水なら、普通は蕎麦ちには困らないと思っていいでしょう。わたし自身も、通常は自宅の水道水に浄水器をとおしたものを使っています。自宅の水は味に慣れていることもあり、へんな水で打つよりよほどおいしいとも思います。少なくとも蕎麦を打つに困ることはありません。
ちなみに、私の地域の浄水場の水質検査結果 (平成13年度)を調べてみると、硬度は最低54(mg/l)、最高86(mg/l)、平均70(mg/l)となっていました。WHOの飲料水水質ガイドラインでは60(mg/l)以下を軟水、60〜120(mg/l)を中軟水、120(mg/l)以上を硬水と分類するそうですから、まあ軟かめの中軟水といったところですね。
3.硬度の高い水はあるのか
これが井戸水や湧き水となると、硬度の高い水もあるでしょう。
カミさんの実家の近くに「蕎麦に向く」という湧き水があります。大晦日には年越し蕎麦を打つのに水汲み行列ができるほどです。
この水で生粉打ちすると、まず加水率が1%ほど上がります。明らかにつなぎにくい水です。なので初心者が生粉打ちをするにはむかないと言えます。まあ普通は二八で打つのでしょうから、この水がつながりにくいと感ずる人はいないでしょうけど。
しかしこの水でうまく生粉打ちすると、そもそも味のいい水ですし、コシもしっかりしますので、たしかにおいしい蕎麦ができます。
では水道水なら安心して打てるかというと、実は水道水の硬度の基準は「300(mg/l)以下」です。なので、実はかなり硬度が高くてもいいわけです。まして井戸水や湧き水ではかなりの高硬度もあり得ます。どこまで硬度が上がると蕎麦がつながらないかはわかりませんが、どうしても蕎麦がつながらないという場合は、水を疑ってみるのもいい考えだと思います。
4.ミネラルウォーターについて
そういう場合の解決策としては、市販のミネラルウォーターから硬度の低いものを選ぶといいでしょう。水道水で困っていなくても、市販のミネラルウォーターで打つのはまた興味深いものです。
水の硬度は、たいがいボトルに書いてあります。書いてなくても成分表がついていれば、下記の数式で計算することができます。
硬度(mg/l)=Mg(mg/l)×4.1+Ca(mg/l)×2.5
成分量は100mlあたりで表示してある場合がありますが、その場合は10倍して計算します。上述のように、これで計算して、60以下が国際的には軟水、60〜120が中軟水です。日本では100以下をざっくり軟水と呼ぶこともあるようです。
では代表的なミネラルウォーターをみてみましょう。
4.1. LUSO (ルソ)
たとえば私のもっとも好きなボトル詰め水は、ポルトガルのルソという水です。これは、
硬度=1.57*4.1+0.65*2. 5=8.1
というとんでもない軟水です。もちろんそばうちにも向きます。わたしは通常は水道水。でも、つながりにくい超粗挽き粉は硬度の低いボトル詰めの軟水で打つことが多く、最近はもっぱらこのルソを使っています。
実は最近、御膳粉を水練りの生粉打ちでつなぐという快挙に成功しましたが、この時に使った水もルソです。
ルソの場合、単に軟水というだけでなく、カルシウムが少なくて、ナトリウムとマグネシウムが多いという組成が味の良さにつながっていると思います。興味のある方は一度お試しください。私はメルカード・ボルトガルから購入しています。おいしいですよ。
4.2. 南アルプスの天然水
硬度10以下は例外的ですが、30前後の水は日本製のミネラルウォーターにかなり存在します。たとえば「南アルプスの天然水」。これが硬度30ですが、この水はどこでも入手できるのでオススメできます。
この水も胡桃亭の粗挽きそば粉が水道水より明らかにつながりやすいですし、ダシをとってみましたが、つゆが美味しくなりました。
実はミネラル分はタンパク質と結合してダシのうま味が抽出されるのをブロックするそうなので、ダシとりにも軟水が向くんだそうです。
4.3. 越後の名水
これは最近ダイエーでみかける水ですが、飲用に美味しくて好きな水のひとつです。蕎麦にも向きます。硬度は24。ラベルには「軟水だからからだにやさしい」なんて書いてあります。
4.4. 北アルプスのおいしい水
ダイエー開発商品で、硬度20とかなりの軟水です。これも美味しい水で、蕎麦にもダシにも向きます。
なお、同じダイエー開発商品で「富士山のおいしい水」というのも低硬度ですが、これはあまり美味しくないのでお勧めしません。「富士山…」のほうが圧倒的に流通していて「北アルプス…」は最近みかけなくなってしまったのが残念です。
4.5. 六甲のおいしい水
中軟水をひとつだけご紹介しておきます。有名な「六甲のおいしい水」です。
硬度84でなので、上記に述べたミネラルウォーターよりやや高硬度で、コシのある蕎麦が打てます。もっとも初心者は毎回加水率が変わって、水の違いよりそのばらつきのほうが大きいでしょうけど、加水率的な問題がクリアできている方はお試しください。
白樺で試した限りではなかなかおいしい蕎麦が打てる水だと思います。
以上、私が試した範囲でおいしいと思った水はこんなところです。
目次をフレーム表示する(目次がないときクリックしてください)