加水プロファイルを考察する (1)





更新 040512
初稿 011221


1)第一加水=半量、は失敗することがある

素人向けの指南書の多くは、数回にわけて加水することを勧めています。私もそれは同じですが、最初の加水量が少ないものをたまに見かけます。

つまり、まず半量を加水し、次に残りの半量、あとは様子を見ながら加水という方法です。

結論からいうと、この「最初に半量を加水する」という方法は、水打ちの場合蕎麦がつながらないことがあります。それはそば粉によるのですが、とにかくつながらない粉が存在します。いわゆる「むずかしい粉」です。そこで推奨されるのが、最初の加水を熱湯に変える湯練りだったりもします。

しかし実は、それは粉がむずかしいのではなくて、加水方法がよくないのです。湯練りには湯練りの良さがあると思いますが、水でつながらないから湯練りというのは、あまりよろしくないと思います。

一方、多くのそば職人は、加水量の80%以上を一気にそばに落とすそうです。全量を一気に加水してしまう人もいます。これは忙しい本職にとって時間の節約という意味もあるようですが、出来上がった蕎麦のデキがよくなるという要素もその理由のひとつのようです。

ここではなぜそうなのか考察してみたいと思います。


2)加水プロファイルが水の入り方に影響を与える

ここにひとつの実験データがあります。何度か似たようなことをしていますが、2004年4月19日に実験した最新データをご覧に入れましょう。

そば粉は頂き物で石川産。加水プロファイル (加水の仕方) を変えて、そば粉が玉にまとまるまでに水がどのくらい入るかを調べたものです。そば粉は200グラム。水はホクレン産の「摩周の霧水」で、同じボトルから出したものです。同じ打ち方で順番を変えて二回打っていますが、全く同じ結果になりました。


[プロファイル1]
・分散加水 62グラム
・第一くくり加水 15グラム
・第二くくり加水 8グラム
・調整加水+2グラム
プロファイル 全加水量の71%+17%+9%+2%=100%
合計87グラム
加水率43.5%

[プロファイル2]
・分散加水 74グラム
・第一くくり加水 9グラム
・第二くくり加水 5グラム
・調整加水4グラム+3グラム
プロファイル 全加水量の78%+6.5%+5%+4%+3%
合計95グラム
加水率47.5%

結果は歴然としています。プロファイル2、つまり初期の加水が多いほうが最終的に多くの水がそば粉に入るのです。プロファイル1の後半でプロファイル2と同じ水量まで水を入れようとしてもドロドロになるだけで蕎麦には入りません。つまり総加水量がプロファイルにより一割以上変わってしまうことがわかります。

味についても大差があり、プロファイル2のほうが圧倒的に美味でした。プロファイル1は硬いですし、茹でたあと短時間でパサパサし、その後ダラっと延びてしまいましたが、プロファイル2は比較的長時間みずみずしく、歯ごたえにも弾力があり、香り、甘味とも十分でした。


3)なぜこうなるのか

ではなぜ最初の加水が多いと、みずみずしい美味しい蕎麦になるのでしょう。

それは、分散加水 (第一加水) の段階では、そば粉のでんぷん質、あるいは破壊されていない細胞が水を吸うことができますが、ここで大量の水を与えているからです。

ではくくり加水ではなぜ水が入らないのでしょうか。

みなさんはそば粉が濡れて手に付くと落とすのが大変なのは経験があると思います。これは蕎麦のタンパク質が小麦などのタンパク質より極めて強い粘性を持っているからです。

分散加水の終了時点になると、この強力なタンパク質がそば粉の澱粉の周囲を覆ってシールしてしまいます。したがって分散加水が終わると、もう水は入りにくくなるのです。

くくり加水 (第二加水以後) は何をするのかと言うと、タンパク質をさらに湿らせて、あるいは水の持つ粘性も利用して細かい粒同士を接着してまとめる作業です。


4)最適な分散加水とは

以上のような原理で、分散加水の初期の加水量が全体の加水率に影響を与えます。水はなるべく多くそば粉に入ったほうが、蕎麦のつながりがよく、また蕎麦が美味しくなりやすいと言えます。このような理由から、最初の加水で全加水量の80〜90%を加水することが水練りの生粉打ちの極意となるのです。

10〜20%を残すのは、分散加水後にそば粉をいったんパン粉状態にすることで水の偏在をなくすためと、天候などによる加水率変化に対応する調整余地を残すためですが、最初の加水で大半を加水するのはとても大切です。

また水は一気に与えると同時に、一気に攪拌することも大切です。タンパク質が局所的に固まって偏在する余裕を与えずカオスな状態にするのです。練るのではなく分散させるのです。これもまた極意です。

美味しい蕎麦になるかどうかは、加水して攪拌する速度が、そば粉が水を吸う速度との競争に勝てるかどうかにかかっています。競争に勝つには、加水をしたら一気にガーっとかき回すことです。

もちろんそのあとのくくり加水も、そば粉を乾燥させないために手早くやることは大切ですが、分散加水で蕎麦打ちはほぼ勝負がついてしまいます。


5)モタモタ加水はなぜ失敗しやすいか

では逆にモタモタ加水は、なぜ失敗しやすいのでしょうか。

少ない加水率の状態でモタモタと粉をいじっていると、砂粒のような固い粒子ができてしまいます。この粒子の表面はタンパク質ですが、中に水にありつけなかった乾いた澱粉が閉じ込められていることが多々あります。またタンパク質同士が先に水をうばうので、タンパク質と仲良くなれなかった澱粉は遊離して単独で残ります。

ここにさらに加水しても、タンパク質にブロックされた澱粉は濡れません。裸の澱粉は濡れても粘りません。だから玉にしてから練るとシャリっと割れるし、やっと延ばしても生地がボロボロになるのです。

さらになんとか麺にしても、茹でると切れてバラバラになる。これはタンパク質にブロックされた乾いた澱粉が茹だらないからです。α化して糊になることができないため、そこで切れてしまうのですね。


6)加水プロファイルを仕上げる

さて、かないまるは予定加水量の80%を一気に与えるのを標準としています。しかしはじめてのそば粉は予定加水量がわかりません。どうしたらよいのでしょう。

私は初めてのそば粉は、とにかく予定加水率を50%とみなして打ちます。だれかが打って情報があるときは尊重します。そして最初は80%からずれた分散加水だとしても、何回か打つ打ちにプロファイルを修正することができます。

なぜなら、最適加水量の80%より多く加水したときは、そのあとの水が最初の水の1/4より少なくなり、80%より少なく加水したときは、そのあとの水が最初の加水の1/4より多く入るからです。

つまりくくり加水で分散加水の1/4より多くの水をほしがれば、次回の蕎麦打ちでは分散加水を増やします。1/4より少ない水しか欲しがらなければ減らします

このように何回か注意深く打ち、分散加水80%、くくり加水10+7+3%のプロファイルをいったん確定します。私はこれで、一応そのそば粉の標準の加水率がわかったとします。実際多くの本職の方の加水率や高山製粉さんが公表している加水率と、私の標準の加水率は一致します。

その上で、柔らかめにしたければ分散加水を多めに (たとえば90%に)すれば、それなりの変化が得られるというわけです。



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