加水プロファイルを考察する (2)





更新 040512
初稿 011221


7)アマチュアは計量が命

前のページで述べたように、加水のプロファイルは総加水率を変化させますし、味もかなり変わります。したがって加水プロファイルを意識することはとても重要です。つまりアマチュアの蕎麦打ちは、総加水量はもちろん、一回ごとの加水量もきちっと計量したほうがいいのです。

本職のそば屋さんは「感覚を磨くために計量はしない」というかたもいらっしゃるようですが、一日に何度も打つ本職ならともかく、素人は絶対にそれではだめです。分散加水の量がちょっとずれただけで、最終加水量(水の入り方)が変わってしまうのです。計量なしには打つたびに食感が変わってしまいます。そのそば粉の一番美味しい状態に出会うことがなかなかできませんし、出会ったとしても再現できません。

本当をいうと、そば屋さんももっときちんと計量すべきであると私は思います。本職の世界でグラム計量の大切さを説いているのは、私の読んだ本の範囲では一茶庵創始者の片倉さんだけです。片倉さんは、「蕎麦のデキが変化したとき、その原因をたどれる仕事をしなくてはいけない」と説いています。蕎麦打ち人としてスケールはかなり (じゃない、全然) 違いますが、主張はかないまるも同じです。

実はこの著書は非常に高価なので一般の本屋には置いてなくて、私は昨年夏の日清製粉の取材のあと友人から「グラム計量のことが書いてあるよ」と聞き、「ほーそれは」と思い購入しました。なので片倉さんの主張を知ったのはつい最近ですが、実に見識に満ちた著書だとおもいます。

片倉さんの著書と対照的に、いわゆる「そば打ち本」を見ていると「気温、湿度や打ち方で、水の入り方は毎回かなり変化します。だからとても難しいものなのです」という記載をよく見かけます。しかしこの記載も問題です。その変化の真の原因に気づいていないからです。

気温や湿度ではたしかに変化しますが、同じ人が同じ道具で同じ量を同じプロファイルで打つ場合、そのズレはせいぜい1%です。私の場合は1%もずれません。乾燥した春から梅雨に入って湿度が大幅に変わってやっと1%です。したがって加水率がずれる本当の理由は、加水プロファイルをグラム計量で安定化させるという科学的考え方がないことにあるのです。

計量により蕎麦打ち、特に水回しが難関ではなくなることは、本webをご覧になった多くの初心者 (というか、全く初めての方)が、生粉打ちが難しいとされてきた「白樺」を見事に一回でつないでしまい、美味しく食べていることで証明されています。


8) 例外(1)…多加水が美味しい例、

さて、何事も例外はつきもの。ここからは例外について書きましょう。

基本的にかないまるのそば打ちページは「必ずつながる」というのがコンセプトです。したがって基本的には読者にいろいろ考えさせたり、思わぬ発見があるという可能性は、むしろないようになっています。つまり完璧なレシピ、マニュアルであることがコンセプトです。

しかしその弊害として、私自身が蕎麦打ちをWEBに書いてある方法が唯一無二と考え、他の打ち方を否定していると誤解されることがあります。そのへんのいいわけもいずれは書きますが(場所は片々雑事になるでしょう)、今回は、普段は読者を混乱させないためにあまり書かない「例外」について少し書いてみようと思います。

-------------
最初の例外は、分散加水を80%より多めにしたほうが美味しい例で、前ページの2)でプロファイルの実例を出した「石川産」のそば粉で起こったことです。このそば粉は頂き物で購入はできませんので、参考として読んでいただくことになりますが、同じようなことが起こるそば粉はいくらでもあると思います。

この石川産は全粒粉に近い石臼細挽きですが、比較的澱粉が多く加水が難しいそば粉です。プロファイル1が全然美味しくなかったのも、このそば粉の特質でしょう。

そこでこのそば粉の分散加水をさらに多くするとどうなるか。実験してみました。プロファイル3、ですね。そば粉は400グラムです。

[プロファイル3]
・分散加水 160グラム
・第一くくり加水 19グラム
・第二くくり加水 10グラム
・調整加水 3グラム
プロファイル 全加水量の84%+10%+5%+3%
合計192グラム
加水率48%

総加水量は192グラム。加水率48%。さすがに分散加水が80%を超えると加水率はそんなに増えません。つまりプロファイル2とそんなに違いません。たった0.5%増。

誤差とも思える差ですが、しかし生地は柔らかめで展延もよくなり、やはり水が多く入った感じはします。

蕎麦きりが出来上がり、これでまず「もりそば」にしてみましたが、これがとても美味しかったです。プロファイル2より弾力感があがり、また甘味やフワッとした香りも増しています。おそらくこのそば粉の魅力を一番引き出せたとおもいます。

次に家族のリクエストで、同じ蕎麦きりで温かい蕎麦を作ってみました。生粉打ち、かつ温かいそばというのは、通常は蕎麦がとろけてしまうので難しいんですが、これが驚きました。とろけないのです。もちろん柔らかくはなりますが、ある程度のしっかりしたコシがずっと残っていました。

これはひとつはこの石川産が澱粉リッチなこともありますが、分散加水量で多加水にして吸水を念入りにしておくと、もしかすると茹で延びしにくくなるのかもしれません。これは初めてみる現象なので、今後いろいろなそば粉で試してみようと思います。


9)例外(2)…粗挽きにおいて吸水が長時間続く例

胡桃亭のそば粉のところにも書いた通り、粗挽きも80%で分散加水すればつながります。くくり加水も「そば粉がかってに集まるのに任せる」という、当WEB記載の方法でちゃんと玉になります。

ところがこの玉になった状態ではそば粉はまだ水を吸い切っていないのです。胡桃亭のそば粉は極めて大粒で、そば粉の細胞が崩れずに残っていますが、あまりに大粒なのでタンパク質も粉になっていないこともあり、細胞や澱粉が分散加水後もタンパク質にシールされないのでしょう。

このそば粉の菊ねり初期は緩い状態で、そば粉を練ると水が吹き出して表面がキラっと光ったりするほどですが、菊ねりが進み玉になり、延しに入る頃には遊離水分は見えなくなります。

実験的には延しに入ってから霧吹きで水をかけてもその水も吸ってしまいます。つまり生地になってからもさらに水が入るということです。普通のそば粉は霧吹きで水をかけるなんてことをすると、表面がベトベトになってしまいます。

とにかく胡桃亭そば粉は、実は「そば粉」とは言い難く、「そばの実の粉砕物」とでもいいたい代物です。この吸水能力の特長を蕎麦きりの味の面に活かしきれるかどうかは今後の課題ですが、とにかくそういうそば粉もあるということです。


10)例外(3)…超分割プロファイルの例

プロファイルはかないまる流だけではありません。プロは100%一気加水も多く、特に二八では100%加水が一番美味しいという職人もいます。

逆に粗挽きの場合そば粉の吸水が長時間続くことを利用して、他の欠点を解決するためにほぼ三等分割で加水するそば屋さんもいます。当ホームページでもそば粉をいただいて打たせていただいた石碾屋さんのそば粉。その石碾屋さんの打ち方注1)がそうで、呼び水、吸い水、つなぎ水という三段階。それぞれが予定加水量のほぼ1/3で構成されます。

石碾屋さんが呼び水の過程を入れるのは、かないまる流でいう分散加水の加水量を一気に入れると「微細分がドロドロのなって手にまとわり付き、粘土遊び状態になって失敗してしまう」からだそうです。味の点でもこれが一番いいと仰います。

しかし同じ石碾屋さんのそば粉を私がかないまる流で分散加水 (つまり80%で分散加水) しても全然大丈夫です。粘度遊びにはならず、あっと言う間にそば粉は分散します。

この違いがどこにあるかというと、一回に打つ量の違いにつきるでしょう。石碾屋さんは本職ですから一回に1キロを超える大きな玉を打ちます。これに対して私は自分用に200グラム程度打つのが普通です。したがって私の場合は難なく分散しますが、それは本職には適さないということかもしれません。それでいながら粗挽きはタンパク質が細胞を覆いきることができないようなので (上記胡桃亭の記載参照) このようにゆっくり加水しても問題なく美味しく打てるということのようです。

このようにそば粉が違い、打つ量が違うと、全然打ち方が変わるということはあり得ることです。味もその世界ごとに違うでしょう。読者のみなさんも、500グラム以下の少量打ちの場合は、かないまる流がいいと思いますが、それ以上打つ場合は、かないまる流のレシピが有効でない事例はいくらでも出てくるだろうことはよく覚えておいてください。

なお石碾屋さんのそば粉は購入できませんので、けっして注文メールなんかは出さないでくださいね。


11)例外(4)…加水量を増やしても同じプロファイルになるそば粉がある

私が今まで打ったそば粉の中でも、例外的で不思議なそば粉が「縄文」です。縄文は「打ち置きによる熟成」が起こります。これは私が知っているそば粉の中では唯一のそば粉です。また加水率許容範囲が極端に広いことは、粗挽き編(a)11-1でも述べました。

このそば粉はもう一つ、加水プロファイルの追い込みで最適加水率を見いだすのが困難という性質も持っています。

というのもそば粉の重量の34%で分散すると加水率が43%くらいで仕上がり、37%くらいで分散すると46%程度で仕上がることがあります。これだとどちらも分散加水は80%前後となっています。

さらに、ちょっとした力加減で全然違う加水率でまとまってしまうことがあり、くくり加水の最適値を非常に見いだしにくいそば粉です。結局縄文は、自分で加水率を決めて意志をもって括る必要があるそば粉といえます。

次ぎにこれは頂き物のそば粉の例ですが、鹿児島産のそば粉で同じようなことが起こったことがあります。ちゃんと80-10-7-3%のプロファイルがとれたのに少しポソポソするので、多加水してみようと思って分散加水を増やして打ち直したのです。

この場合、通常はそのあとの加水は、初回の20%より減るのが普通。しかしこのそば粉はやはり20%入ってしまい、結局80-10-7-3%のプロファイルになってしまうのです。

このようになる理由は、縄文や鹿児島産がタンパク質が豊富なことに関係していそうですが、まだ詳しくはわかっていません。いずれにしてもこの手のそば粉は、そば粉が最適加水率を教えてくれないタイプのそば粉なので、何度か打って、予定加水率を自分で決める必要があります。ある意味、非常に難しく,、誤解も受けやすいそば粉といえます。


12)指南書の気持ち

最後の補足です。なぜ指南書に80〜90%の加水をさせないものがあるのかを考えてみます。実は多くの指南書が採用しているそば粉は生粉打ちではなくて小麦粉の入った二八です。そして二八ではゆっくり加水しても失敗しないという側面が見逃せません。

理由は小麦粉が入るとグルテンができるので、生地をあとから練り延ばすことが可能になるからです。また小麦粉は早く吸水し、吸水後も基本的には (グルテンができるまでは) さらさらしていますから、小麦粉からゆっくりそば粉に水を与えることも可能です。

では生粉打ちはどうか。指南書で使っているそば粉は「生粉打ちに適したそば粉」、つまり全粒粉です。白樺のような恐ろしいそば粉は使いません。全層粉の場合はタンパク質がリッチなので、澱粉の吸水とは関係なくとにかくつながってしまいますので、これも失敗しにくいと言えます (ただし茹でたときの蕎麦切れは起こります)。

致命的な失敗が起こらないのなら、ゆっくり加水したほうが、そりゃあ楽です。だからそういう指南があっても不思議ではありません。

しかし問題は、これでは上達しないということです。「白樺」のような1番粉と2番粉を主成分として外層を含まないそば粉はタンパク質量が少ないので、過度に加水を分割したりモタモタと粉に触っていることは失敗の原因となります。私も最初のころ分割過多な指南書を読んでしまったため、白樺がつながらず非常になやみました。つながったりつながらなかったりするんです。

それがある時時間がなくて、一回目と二回目に用意してあった水を一度に加えてしまいました。75%の分散加水にあたります。ここで私は生粉打ちに開眼したといえます。


というわけで、加水プロファイルは加水率をも左右する重要な要素ですというお話でした。



目次をフレーム表示する(目次がないときクリックしてください)
かないまるのホームページへ