ケース (シャーシ) の音質



100712初稿



今回は再びメカもので、ケース (シャーシ)の音質です。PCの場合、一般的には電源込みで「ケース」と呼びますが、オーディオ的にはまさにシャーシで、音質上重要です。


1.シャーシはなぜ重要か

スピーカから音が出ていない場合でも、PCの中には最低二つのファンがあります。電源ファンとCPUクーラーです。音質を考慮する場合、ファン類の回転数は温度上昇の余裕の範囲で下げて使うのことが音質を向上させますが、それでも振動は残っています。

CPUのファンは水冷や大型ヒートシンクによりファンレスにすることも可能です。でも通常はファンはつけた方が無難です。理由は、

  1. 完全にファンレスにできる大型ヒートシンクは、ビラビラタイプのフィンが普通だが、すでに述べたように音質が悪い
  2. 大型ヒートシンクは背が異常に高く、カンチレバー共振の周波数が下がりすぎて、低域がブーミーになる
  3. マザボはある程度CPUファンによる風を期待した設計が多いので、ファンレスにすると信頼性が落ちる (たとえばファンレスのノースブリッジは、CPUファンレスだとかなり高温になる)

といったところです。3は意外に盲点で、水冷方式の欠点の一つです。

シャーシ内にはまだ幾つかの振動源があります。もっとも有害なのはCD-R (DVD/BDも同じ) ドライブの振動ノイズです。

CDドライブの振動というとやはり回転駆動モータの振動に目が行きそうですが、実は周波数が低い (高くてせいぜい数十Hz) のでそんなに有害ではありません。やっかいなのは実は光学系です。

光学系はフォーカスサーボやトラッキングサーボでレンズをCD面に追跡させる仕組みを持ちますが、駆動されるレンズは結構重量があります。駆動コイルのインピーダンスは8Ω前後なのでまさにスピーカですが、振動系として見るとレンズはツイータよりはるかに重く、駆動パワーは軽く1ワット前後あります。周波数も最高1kHzくらいまで。つまり結構な振動源です。

こうした振動源は、シャーシのデキが悪いと、すぐに回路部品に伝わり、オーディオ信号や、オーディオ信号を作るためのクロックを変調するので、音質に影響があります。

かないまるは本来アンプの設計者ですが、ご存じのようにCDプレーヤの設計者でもあります。最初に設計したCDプレーヤは、ステレオサウンド誌でゴールデンサウンド賞を受賞したCDP−R1です。これを設計中に、オーディオ機器が回転系をもっていると、その音質がシャーシの出来に非常に敏感に反応することに気づきました。

スピーカの音圧を受けるところで使う場合はスピーカの音圧起因の振動がシャーシに起こり、それがサーボ系にリアクションを起こさせるというのはすぐに想像がつきます。でも、どうもそれだけではない。音圧がなくてもシャーシの出来が音質を変えてるようなんですね。

そこでスピーカから音を出さない無音の状態でメカの部品や構造を変えて、その都度カセットに音を録音して、あとでまとめて聴いてみると、あらまあコロコロと音質が変わっています。そこで気づいたのが、定常的に発生する機械ノイズで信号経路の部品や接点の接触抵抗が変調され、たとえばその周波数特性で音質が好ましくなったり、いやな音がしたりということが起こるんでしょう。

周波数特性を生ずる理由は、たとえば光学系の振動を出発点に考えると、その振動がシャーシに伝わります。シャーシは共振周波数を幾つか持ちますので、その周波数で振動レベルが大きくなります。この振動はドライブに伝わり、光学スポットの位置を変化させます。すると光学系はスポットずれを無くすように動作。この動作は光学系のキックなので、その反作用がシャーシに伝わります。これでループが完成。結局シャーシの共振モードが光学系を介して増幅されるような感じでクセが強調される、そんなふうに考えればいいでしょう。これはCDプレーヤなどのドライブ系の音質設計がとても難しい理由ですが、PCの音質のケアの要点の一つが、まさにここにあるのです。

また光学系の駆動電流はかなり大きいうえ、ドライブコイルの磁気回路は大概オープンなので、ドライブ電流起因の磁力線がドライブから漏れだします。この磁力線は振動を強く反映していますので、少しでも他の回路(たとえばクロック系)に飛び込むと、たちどころに音質に影響するのです。

こうした音質の変化は、ヘッドホンでも「差があること」はわかります。しかし、最終的にはスピーカで再生したときの空間のでき方が結構大切な「善し悪し」で、これはヘッドホンではまずわかりません。音色はわかってもスピーカが作る空間再現の様子はヘッドホンでは判断し難しいのです。カセットへの録音という方法は、それを解決するために編み出した手法ですが、かないまるがPCの音質検討でCD-Rを焼いて確認するのも、このへんに由来します。

なお「録音法」はかないまるが編み出した音質チューニングの方法ですが、類似の判断をするのに隣室法というのがあります。無音の隣室にターゲット機器をおき、振動を遮断して音質を判断するわけです。でも「隣室」という設備をつくるのが大変ですし、仕掛けの大きなリモコンか助手が必要なので、プロでも使っている例はまれだと思います。


2.ケースはシンプルなものがいい

では経験的原則をすこしご紹介しましょう。まずシャーシは構造がシンプルなものが音質もよくなります。

自作用のケースは、高級なモノはほぼ例外なくマザボを取り付けたまま引き出せるようになっています。これはシャーシが複雑になっていることを意味して、実は振動的にはとても問題多い構造です。試しにケースを叩いてみるとバシバシといやな音を立てるものが多い。引き抜き可能構造が悪いとはいいませんが、少なくともどこを叩いても「コンコン」というきれいな音がすることが条件です。

でもなにしろ構造が簡単なものにはかないません。そういうのは概してコストを絞った安物にしかなくて、それはそれで鉄板が薄くて「強度不足」で安っぽい音になりやすい傾向があります。

そういうわけで、かないまるはオークションなどでシャーシの出物を気をつけていて、シンプルなものがあると時々落札して音を聴くようにしています。高いモノは敬遠して、2000円以下のものしか手を出しませんが、そういうものに結構いいものがあります。秋葉原を歩くときはジャンクシャーシにも目が行きます。




最近のヒットがこれです。出品画像でみてシンプルで丈夫そう。電源レスで500円という捨て値も魅力。入札したところそのまま落札できました。送料が倍以上かかりましたけど。

このケースの一番いいところは、マザボの取り付け部分が一般的な真鍮や鉄の六角ボスではなく、鉄板をエンボス (しぼり) 加工で突き出して作ってあることです。

実は自作用のケースに多い「ねじ込み式ボス」は、音質的には好ましくありません。まず使っているうちる緩むのが困りますね。きつく締めるとネジが切れたりしますし。特に真鍮ボスはボス自体が鳴きやすく、音にクセが乗りやすいので、オーディオ設計では敬遠するのが普通です。ボス使用でもメーカー製PCに多いカシメ、あるいは溶接ならOKです。材質的には鉄に亜鉛メッキ(クロメート併用)がいいですね。

でもどんなボスよりいいのが絞り加工です。PCケースの絞り加工モノは実は初めて手にしましたが、基板がピタっと吸いつくようにシャーシに取り付き、基板を叩いてみるととてもいい感じに響きます。音質もとてもいいものでした。

このケースは、この部分以外も全体的に構造がシンプルで、どこにもガタのないすばらしいものでした。間違いなく単品売りのケースですが、きっと安物なんでしょうね。でもなかなか入手できない良品でした。


3.鉄かアルミか

上記のケースは鉄製です。アルミと鉄では、鉄のほうがしっかりした音がします。鉄の場合シャーシインピーダンスは若干高めですが、絞り加工はその点でも有利です。

ではアルミケースはどうかというと、アルミは一般に汚れの少ない端正な音になります。ですが、アルミで板厚の薄い安物は避けた方が無難です。スゴク安っぽい音になりやすいのです。もちろん板厚が十分なら音質はよい傾向で、その場合は鉄とは違う持ち味が生きてきます。結局アルミシャーシは板厚2ミリ程度が必要と考えるべきで (例外はありますが)、音質をよくするには金がかかるものです。

鉄シャーシのよくできたものは安価で音がいい。アルミの良さを出すのは大変だが、金をかけれ究極的な持ち味がある、としておきましょう。


4.音のよいアルミケースのご紹介

かないまるが藤田恵美さんのcamomile Best Audioのミックスをお手伝いしたときに自宅のPCでマルチチャンネルの確認をしていたことは公開済みですが、そのときのケースを分解するチャンスがあったので画像でご紹介しましょう。



ケースのエンブレムです。Abee社の「AS Enclosuree S1」という製品で、定価¥32,800 (税込)ですから安いものではありません。



上から見た画像です。メカの製造方法に詳しい方なら、このケースが金型を起こさずに、「シャーリング」と「ターレットパンチ(通称タレパン)」という方法で作られていることにすぐ気付くでしょう。タレパンはNC加工の一種で、シャーシ上部の端面が直線でなくギザギザに見えますが、これがタレパン製造の特長です。

タレパンの実際の加工の様子はこちらで動画で見ることができますが、この動画で円形に多数並んでいる緑の円筒形の下に、いろいろな形をした小型の金型がついていて、これを上から叩いて穴を開けます。大きな穴は小さな穴を何回も叩いて開けるので、画像のようなギザができるのです。

この加工方法は、加工に時間がかかるのでお金がかかりますが、金型を起こさなくても製造できる方法です。なので製造台数が1000台以下はまずこの方式になります。多くて数千台。数千台を超えると一台あたりの金型代が安くなりますので、一回のパンチでドカンと穴を抜く大きな金型を起こした方がコストが安くなります。

一台三万円のPCケースを、大きな金型を起こせるほど多くの人が買うとは到底思えませんが、逆に高額でも性能のよい製品を作ろうという意志が、この切断面から見えてきます。



ケースの一部のアップです。ケース各部にはL曲げやコの字曲げを多様して、2ミリの板厚をさらに強度アップしていますが、逆に突っ張っていけないところは力が抜ける工夫もしてあります。手で回せるネジが止まっている向こう側のアルミ材は、単なる一枚板をL曲げしただけのものですが、ここはネジ側のシャーシ部の前後方向の位置 (画像で左右方向) だけを規制すればよいところです。ネジの奥行き方向は規制してはいけないところ。なので、これでいいのです。非常に上手な人が設計したのだと思います。



その話は、ここが分かりやすいかな。3.5インチのベイですが、右壁は前後にコの字曲げがあります。これで強烈な強度が出ます。でも左の壁にはそれがありません。切りっぱなしの板。

これはなぜかというと、両方にコの字曲げを入れると、HDDの寸法とケンカして、ビスを締めると強烈なストレスになるのでそれを避けているのです。つまり左壁は曲がるように設計されています。

このようなことは、強度のある高級機のシャーシを設計する場合の常識なんですが、PCケースはこの常識を知らない設計をよく見かけます。CD-Rドライブなんかはドライブ自体の側面が弱いので膨らんでなじんでくれますが、HDDは本体がアルミダイキャストでできているので、絶対に変形しません。なので取り付け部が変形するようになっていなければいけないんです。

実際のところ、鉄でもアルミでも、HDDを取り付けようとするとギリギリと強烈な機械歪みが入るPCケースを見かけます。安物の板厚の薄いケースはそういう設計でもまあOKですが、強度のあるケースはちゃんと設計されていないと、音質以前にHDDを壊しかねないので、要注意ですね。

なおこのケースは、マザボをアルミ板に取り付けた状態で取り外すことができますが、それは引き抜き式ではなくて、アルミ板金をケース横に倒すことができるようになっているだけです。普段はネジでケースにガッチリ止めるようになっていますので、叩いてバシバシいうことはありません。このへんもサービス性と音質(を考慮したかどうか知りませんが)がよく両立していて、とても優秀なケースといえるでしょう。