温故知新
TA-DA5700ES勉強会



蟹型グラウンド端子



初稿 120206



温故知新

今回の勉強会は新しい技術だけでなく、従来からの技術も復習してみようと思っていて、このコーナーで扱います。

DA5700ESを支えている技術は新技術だけではありません。というか、むしろここ数年、いや10年のスパンで積み上げた技術、機能が、今も音質を支えているという部分がしっかりあります。

継続は力なりといいますが、音質技術はまさにそうで、昨年までの製品に今年の努力を積み上げて今年の音がでています。でも古くて長い技術はカタログから落ちてしまいがちです。

そういう技術テーマを、今回は少し振り返ってみたいと思います。初回は蟹形グラウンド端子です。


グラウンドは悩ましい

真空管アンプを自作された方はわかると思いますが、アンプの音質はグラウンドを少し変えるとかなり状況が変わります。配線の順序を変えただけでハムが出たりもします。なかなか難しい。

それがマルチチャンネルアンプともなると、もう気が狂いそうです。2チャンネルオーディオのころ、自分ではかなりわかったと思っていたグラウンドですが、AVアンプは困りました。まずチャンネルが多い。しかもビデオ回路の高周波や、デジタル回路のノイズまで流れてくる。

電流はグラウンドの内部抵抗で電圧に変わりますが、それが入力と混ざると増幅されて音質が悪くなるんです。


カットアンドトライで順番を決めたTA-V88ES

かないまるがAVアンプを手がけたのはTA-V88ESですが、このモデルで最初にやっことは、5チャンネルもあるアンプのグラウンド電流同志の干渉やノイズが音に混ざるのを防止することでした。

検討前のグラウンドはプリントパターンで作られていました。当時の平均的なグラウンド設計。音はよくありませんでした。とにかく汚いし、聴こえない音もありました。グラウンドがよくないというのはすぐにわかりました。

こういうときにピュアオーディオの世界では、すぐに銅板を持ち出します。でも銅板を持ち込むのは「私は考えきることができませんでした」と白状しているようなもんです。第一回路が多くて銅板代がありません。無理をするとほかの部分の音質が悪くなります。

そこでかないまるは、試作品のTA-V88ESの基板の裏のパターンをまずカッターで全部切り、グランウドをつなぐ順番をコツコツと変えながら音を聴きました。

丸一週間後。よくなりましたよ。仕上がったTA-V88ESは、HiVi誌ベストバイでソニーアンプで初のベストバイ一位をいただきました。検討結果はそのままプリントパターンに反映。パターンが書けない配線はジャンパ線を飛ばしまてでも検討結果どおりの順番に接続しました。自分で書くのも変ですが「名人芸」だったと思います。

蟹形グラウンド端子

でもこのパターンを再現するのはとっても難しいのです。一品料理みたいなもので、次のアンプで再現するのはとっても大変。そこで作ったのが「蟹形グラウンド端子」です。



これが実物。幅15ミリ、奥行き10ミリくらいの部品です。

まず銅箔でグラウンドを作るよりも抵抗値が低い。パターンの銅箔の30倍くらいありますからね。沸き上がる電圧が小さくてそもそもの性能がいいんです。

そして、どの足がNFの基準、どれがトランスに接続、どれがスピーカのどのチャンネルのリターンと全部決めてあります。なので間違えようとして間違うことができないのです。

最初に入れたのはTA-N9000ESとTA-V55ESだったと思います。当時はちゃんとカタログで紹介しました。現在はあまり大きく扱っていませんが、いまだにソニーのAVアンプの音質を基礎で支えているのが、この1センチ角くらいの部品で、以来今回のDA5700ESまで、14年間ずーっと搭載しています。


名人芸の量産

蟹形グラウンド端子にはもう一つ大きな意味があります。それは名人芸を多くの設計者が共用できることです。

ソニーはマレーシアにもアンプ設計部隊があり東京といろいろと分担し
ています。音質は東京と同じ基準なので、かないまるはここの音質設計
の指導もしていますが、ここ数年は絶好調なんですよ。イギリスの「What Hi-Fi?」という、UKで実に8割のシェアを握るほど信頼されているオーディオ誌で、価格別年間アワードを3年連続で獲得しています。



これはWhat Hi-Fi?の試聴記事です。☆☆☆☆☆は最高評価で「ステレオ特選」くらいすとるのが難しい。この評価記事は日本の雑誌と違い、何年でも評価記事を見ることができます (悪い評価をとってしまうと、それもずーっと残ってしまいますが)。

そして年間アワードをとると、紹介文にそのことを後から書き加えてくれます。この記事にも、

みたいなことが書いてあります。

一昨年日本で発売したSTR-DH710 (まだ販売継続中) は発売当時、音質に感動したライターさんが週間ポストで扱ってくれたほどでしたが、このDH810をパワーダウンした日本向けモデルで、音質技術は共通です。

このマレーシアの設計アンプでも、一番難しい一点グラウンド設計に同じ蟹形グラウンド端子使っています。なので、この部分はとくに指導しなくても自動的に間違わない設計になります。もう基礎体力といえますね。





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