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楽曲をコピーするたびに音質が変わるのはなぜですか。


ご質問)
はじめまして

問題を解決しようと色々調べておりましたらこちらに辿りつきました。

自分なりにPCオーディオというものに試行錯誤を繰り返し、満足のいく再生環境、音源を確保できるようになったのですが、根本的に解決できない問題がでてきましたので質問させていただきます。

今回質問させていただきたいのはWAVEデータについてなのですが、記憶媒体にかかわらず(私が実際試したのはHDD、SSD、USBフラッシュメモリ)
インポートなどで曲を蓄積していく度にそれ以前に保存されているデータの音が変化していくことです。(主観では曲の情報量、解像度、高音域の減少など)最後にインポートしたものとは明らかに音が違うと感じました。(同じ曲で比較)

同じ症状がipodでもみられました。一番困っているのは上記の内容なのですがその他に音が変化する要素としてきづいたのは

ほかにもたくさんあるのですが、何かしらデータの書き換えがあった時に起こるのではとおもっております。

これは一体どういうこたなのでしょうか?
OSの問題なのでしょうか?
使用OSはWindows XPです。

このままでは一番良い状態でデータを保存していけないので本当に困っております。

私の認識不足や勘違いの可能性も十分承知しております。
ご指導のほどどうぞよろしくお願い致します。

お答え)

なかなか感度のよいシステムをおもちのようですね。悪いことではないし、耳もよいかただと拝察しますが、別の見方をするとPCがやや脆弱かもしれません。私は音質の本職ですし、データのコピーで音が変わるのはもちろん認識していますが、さりとて、コピーのたびにどんどん悪くなり、それで困るとかはあまり感じません。まあいいか、という範囲に納まっています。気楽なのか、システムがわりとよいのか(コピーしても劣化が少ないとか)はわかりませんが。

で、この件に関しては、まだ全然整理できていませんが、早晩扱うつもりでいました。そこでまだまとまっていませんが、速報的に書いてみたいと思います。

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デジタルなのに音質が変わる。これはCDではもう当たり前になっていますが、ストレージで変わっても全然不思議ではありません。デジタル記録の本体は実はアナログ波形であることを理解すれば、現象が理解できると思います。

というのも、デジタル情報は1と0しかありませんが、実際の記録はふにゃふにゃなアナログの波形で出来ています。読み出すときに、ある程度以上の電圧を1、ある程度以下を0とするだけです。

ふにゃふにゃとは、1と記録したものは、HDD上では1ではなくて、ある飽和値を1としたら、0.7〜1.0くらいに記録されているということです。0と記録したものは0〜0.3くらいでしょうか。これを0.5くらいで上か下かで判定すれば、数字としてはもとに戻ります。

しかしHDDやメモリから読み出したときの波形はかなり微弱なもので、これをものすごく大きく増幅します。増幅すると0か1に張りつきますから、デジタルになるわけです。

ところが、この0から1、1から0へ反転するタイミングは、元のアナログの読み出した波形が弱いと、グラグラと時間的に前後に揺れます。揺れても読み出すタイミングまでには必ず安定しますので(そうなる
ようにサーボ系が動作しています)やはり数字は間違いません。

ところが波形が反転するときには電源にスパイクノイズが入ります。波形がグラグラ揺れていると、反転ノイズが出るタイミングがグラグラになります。これが周り回ってDA変換のクロックを揺らすと音質を害します。またコピー時は元に比べると揺れが多くなるので、音質が変わって行く(一般的には劣化して行く)のです。


一般的にデジタルデータが音質がよいのは、CDからのリッピングでは読み出した直後です。ドライブを回すときに指令用に使った元気で綺麗なクロックでHDDにも力強く記録されるからです。

ところがこれをコピーするときは、データを読み出したときのノイズが記録した波形に痕跡を残すので、音質が変わるのです。

リッピング用に使うCDドライブでも音質が変わります。金属シャーシを持っている10年以上前に作られたCD-Rドライブは音質がよく、たとえば古いプレクやTEACのドライブが音質がよいのは有名です。(プレクはPATA、TEACはSCSIなので、システムを維持することも次第に難しくなりますが)。

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ハードディスクは磁気記録でかなり微弱信号ですし、回転系を持っているので振動に弱いという類推はしやすいのか、音質劣化があっても当然と思う人は結構います。しかし、では半導体メモリなら音質的に
安定化というと、これがそうではありません。

半導体メモリは実はMOSトランジスタのゲートに電荷を溜めておき、それで1か0かを判定しますが、電荷はフルにたまっているわけではなくて、やはりセルによって80%とか90%とかばらつきます。0側も
電荷がカラではなくて少し残っていたり、かなり残っていたりします。

したがってアドレスラインでセルのデータを読みに行くと、よみだされた時は1か0になっていますが、それまでの時間に、素早く1になったり、のろのろと1になったりします。中の電荷が多いほど速く1になるわけです。結果的に、はやり読み出しラインの電圧変化は「ふにゃふにゃ」の仲間です。そこから1と0を判定する。HDDと同じなんですね。

また半導体はアドレスライン自体がノイズ源であるという難しさもあります。半導体メモリは容量が大きいほど音質は悪くなる傾向です。これは同時に動くアドレス幅が大きいことで説明が付きます。SSDなどの大容量の高速フラッシュメモリは、かなりのビット数のアドレスラインがバッサバッサと動きますので、相当ノイズが多い環境になります。読み出された連続データにはこのノイズが乗り、やはり上記のようなア
ナログ的なダメージを受けます。

たとえば同じ楽曲を三回つづけて同じメモリに書いたとします。一回目、二回目、三回目。同じ音がするでしょうか。まあ大体は同じです。でもかなりちがいます。

理由のひとつは一回目、二回目、三回目のアドレシングパターンが違うので、そのノイズ波形が全く違うのことにあります。音楽波形は常にアドレッシング波形とともにあります。その随伴者が違うんですから音は違って当然です。

こんな実験もできます。たとえばフォーマットしてから全部のデータにゼロを書き込み、それから先頭に楽曲を書く場合は、何度やってもだいたい同じ音が再現します。しかしそのあと何度か同じ曲を連続して記録すると、最初のファイルの音質が変わってきます。つまりメモリにあとからデータを書き足すと変化するのです。この原因は、書かれているデータが増えると半導体全体としての電位が変化するというのが原因です。一般にたくさんのデータが書かれていると「1」になっているセル(ハイ電位のセル)が増えるので、半導体メモリブロック全体の電位が高くなります。その結果しきい値が変化して音質が変わります。

これらはハードディスクではほとんど起こらない問題です。症状が重い半導体では、フォーマット
したらそのまま使わずに、一度ランダムデータを書き込んでしまうと音質が安定して使いやすくなることがあります。ランダムデータの書き込み(ゼロデータの書き込みも同じ)は、HDDなどの廃棄時に不正コピーを防止するためのソフトを使えばできます。たとえば空き容量にランダムを書き込む「Disk FreeSpace Cleaner」というソフトは、音質改善用にも有用です。

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では、このことが一般的にあまり騒がれないのはなぜかというと、まず気付かない人がいるというケースはかなりあると思います。

しかし、気付いている人もいます。評論家の麻倉さんの本(麻倉式PCオーディオだったかな)には、この辺のことが結構書かれています。

PCによっても現象が強く出るケースとあまり敏感でないケースがあります。後者の場合は、そもそも音質がよくなくて分からないものと、本質的に性能がよく、劣化が少ないケースの二つがあります。

マザーボードの設計が悪いと、データの反転ノイズが電源を経由してあちこちに伝わるので変化が大きくなります。概して音質のよいPCはノイズが少ないので、コピーしたときの劣化も少ないようです。

SSDのほうが音質がよいという人も多いですが、盲信に近いものがあります。私の検討ではHDDのほうが音質がよいこともよくあります。

たとえばノート用のHDDはモーター用の5ボルトとデータ用の5ボルトが同じものなので、あまりよい音質は望めません。ノート用は振動が少なくて音質がよいというこれまた盲信がありますが、一般的に2.5インチのHDDは音質は全然ダメです。なのでノートPCでHDDをSSD (それもあまり高速でないもの) に変えると、音質がよくなることがしばしば見られます。

しかし3.5インチのHDDは、とても音質がよいケースが多いのです。なんでもいいというわけではありませんが、音質がよいものはSSDの比ではありません。理由はモータ回転用が12ボルト。データ
用が5ボルトと電源が別れているからです。

3.5インチでもHDDの設計により音の善し悪しが変わります。なので一概にはいえないのです。私の場合は、常に音質比較をおこないよいものを残して使っているので、比較しないで使っている方に比べると音質にすでに大差が付いています。会社の試聴室のHDDはそれこそ厳選に厳選を重ねたものを使っています。

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さて、音質が悪くなってしまった場合、回復する方法があります。それはネットワークを通すことです。ネットワークはパケット通信なので、連続波形が一度数字の固まりにバラバラになります。またネットワークは通常読み出し側がクロックを持っていますので、HDDに書き込むときにフレッシュなクロックが使えます。

たとえばNASに一旦データを溜めて、それを読み出しながらHDDに記録し直すと、かなり音質がよくなります。リッピング時にクロックが揺れない保証は全くありません。実はリッピングソフトによっても音質が違いますが、一度LANを通すとそのクセは相当減ります。私の自宅では、リッピング直後より一度NASに溜めた後の方が音質はよくなります。そういうルーチンを前提とすると、リッピングソフトの選び方も変わります。

NASもかなりモデルによって音質が違います。有名なR社が指定しているNASでも、本当にものすごく音質が悪いものがあります。特に2.5インチのHDDを使ったものは、ぞっとするほどよくありませんでした。LANとの接続に使うICでも音質が違いますので、よいものを探すためはある程度の投資は必要です。

LANではなくてWAN(公衆回線)上のストレージを通すと、これは完全に元のクセが消えます。もちろん公衆回線の悪さは乗りますが、クセを消すにはこれ以上のものはありません。たとえば「おくりん坊」や「データ便」などのファイル転送サービスを試しててください。どんなに頑固なクセも、善し悪しはともかく、とにかく完全に消えます。かないまるは音質改善用に一部のサイトとの間でFTP転送することを利用しています。

結局、パケットにばらすことをkeyとすれば、一定のレベルにクセを消すことは可能なんです。いわいデジタルデータ(PCMの個々の値)は変化しませんので、音質を維持する作戦さえ立てば、元に戻す方法は
あるのです。


最後にメール中で気になった点に注釈を入れておきます。


> 最後にインポートしたものとは明らかに音が違うと感じました。(同じ曲で比較)

よく気をつければ、必ずしも悪くなるばかりとは限らないと思い
ます。もしよくなることがあれば、そのシステムは音質を綺麗にす
る仕組みがなにか隠れています。理由はともかく、そういう現象を
つかんだら、手順として覚えておくと、なにかと役に立ちますよ。


> 曲の格納でフォルダを作成する(後は階層を下げるほど変化する)

階層を下げるとデータのアクセスアドレスが長くなるからだと思わ
れます。多くの再生アプリがルートからの絶対アドレスでデータを
読むはずなので、階層は浅いほどいいはずです。


> インポート後の曲のメタデータの変更(名前やアートワークの挿入など)

実はその部分だけでなく、結構大きな書き換えが発生することが多
いものです。そうなるとファイルの連続性が失われるので、音質が
ダメージを受けます。部分的に書き換えられている形跡があるとき
は、一度ファイルを丸ごとコピーしてみるとわかります。もし改善
したら、ファイルの断片化が原因です。


> ipod本体でプレイリストを作り、再生したとき(比較はipodの検索機能で同じ曲を見つけて再生)

たぶんプレイリストを解読するソフトが並行して無駄に走るからで
しょう。


> これは一体どういうこたなのでしょうか?
> OSの問題なのでしょうか?
> 使用OSはWindows XPです。

OSはデータの受け渡しを握っていますので、当然音質に関係します。
私は今のところ音楽用は全てWindows XP (SP3)ですが、すでにご紹介
したように設定でかなり音質が変わります。麻倉さんの本にも似たよ
うな記述がでてきます。基本的には余計な仕事を減らして上げるほど
音質がよくなります。

> このままでは一番良い状態でデータを保存していけないので本当に困っております。

数値データ的には完全に元のものが保存されますので、音質はいず
れ治すことができます。あまり気に病まないでシステムをよくする
ことを考えましょう。

たとえば安価なものでよいので、音楽用に軽いPCを一台入手してみ
ることをお勧めします。高額Pは、たとえばグラボに凝ったものが
入っていたりしますが、これだけでもう音質的にはかなりアウトで
す(コピーの品質にも当然悪影響となり、いたずらに音質劣化で悩む
ことになります)。

いささか書きっぱなしですが、眠くなったのでここまでとさせて
いただきます。