ニコンAFズームレンズ

AF-S DX Zoom Nikkor ED 18-70mm F3.5-F4.5G(IF)

オートフォーカス修理の記録



初稿 090411
更新 090418

1) まえがき

突然ですが、AF-S DX Zoom Nikkor ED 18-70mm F3.5-F4.5G(IF)というレンズのフォーカスが動かないという故障を修理しましたので公開します。

実はネット上には、超音波モードラAFやプリンタなどの修理Q&Aに 「できっこない」 みたいな書き込み (Q&Aへの回答) が溢れています。修理を思い立った質問者を非常識呼ばわりするような書き込みが大変に多い。

なにしろかないまるはいろいろなものを分解して壊して成長しました。いまもキカイが故障すると大概中を開けます。そこでいじり壊してから修理に出すのは有償修理でも反則ですが、ダメモトで開けて、いじって壊れたら捨てるのは勉強になります。授業料ですよ。得るものは多い。

しかし今は 「そもそも素人が中をいじるのは無理」 という風潮がネットを支配しています。そこで今回のレンズの修理について、修理の様子を公開することにしました。


2) どういうレンズ?

かないまるホームページには花の画像がかなりありますが、ほとんどがこのレンズで撮影したものです。D70レンズキットに付属していたもので、価格からは考えられないほど表現力のある素敵なレンズです。

実はかないまるのD70本体は、有名な「初期型に発生する突然死」で壊れました。無償修理にありついた人もいるのにかないまるはそうなりませんでした。なのでジャンクとして処分し、現在は同じCCDを使った「D40」を中古購入し、レンズはそのまま活躍中です。レンズとCCDの組み合わせが同じせいかよく似た感触の写真が撮れます。

ことろがD40ボディはとても軽くて、カメラとしてはレンズ側がヘビーバランス。軽いこと自体はとても助かっていますが、この2月にうっかりレンズ側から落下。ショックでオートフォーカスが動かなくなってしまいました。

ニコンギャラリーでの修理見積もりは二万円弱。それ自体はまあ見積もりですから認めますが、許せなかったのが「超音波モータは無条件で交換します」と言われたことです。生きていると確信がありましたが、無条件で交換?。それはないよなあ。断言されてはしょうがないので持ち帰りました。


3) 超音波モータとかないまる

実はかないまるは、オーディオ機器に始めて超音波モータを使った人です。ピュアオーディオ機であるTA-ER1を設計したとき、時代の要請だからと、ボリウムの「リモコン対応」を求められました。ハイエンド機には要らないと思いましたし、実際A社やP社はやっていないのにかないまるだけ「やれ」と言われました。やるのは音質的に不利です。

リモコン対応ボリウムは、モータギアを組み込むので、手にした感触はしっかり作れても、ボリウム自体は軸にガタができるんです。ガタを詰めたらギアが回りませんからね。軸にガタがあるとシャーシに振動によって分圧比が変わりますから、音にAM変調がかかります。モータやギアのガタもあるため、その非線形な振動もボリウムに悪影響があり、それを避けるためです (公開済みの公知情報ですので念のため)。

かないまるはAVアンプに転向する前にピュアアンプ設計の同僚に相談され、「今のモードラのボリウムよりは電子スイッチで分圧比を切り換える電子ボリウムのほうが音をよくできる可能性がある」と助言しています。かないまる自身が関わったAVアンプでモーターボリウムなのは、2000年モデルのTA-V555ESまで (当時のAVアンプはこの音質差が分る次元ではなかったので問題ありません)。2001年発売のTA-VA555ES以後は、全て電子ボリウムになっています。

例外は1999年発売の「TA-E9000ES」と、TA-DA9000ESなどのS-Master PROデジタルアンプで、前者はDACの基準電流を、S-Master PROは電源電圧を可変することにより音量を可変しています。なのでそもそもアッテネータ方式のボリウムすらありません(ボリウムノブは、電子ボリウム同様、単なるエンコーダです)。

TA-ER1は完全アナログアンプなので、ボリウムは分圧器 (アッテネータ) 方式ですが、音質的に危険なリモコン対応は企画的にマストでした。まあ、Rシリーズはかないまるの個人事業みたいなものなので拒否することも可能でしたが、リモコン化自体は音質よく実現できれば便利には相違ないので、当時のかないまるは高音質リモコンボリウムに挑戦することにしました (元気でしたね)

そこで、かないまるが白羽の矢をたてたのが、回転中も停止中も全くガタがない超音波モータです。

超音波モータ自体が1986年に新生工業というところが市販品第一号を作ったばかりで、かないまるはその新生工業に出かけて行き、1989年ごろサンプルをいただいて (購入だったかな…) 検討した結果、TA-ER1に採用を決定。1991年に発売しています。当時超音波モータを産業的に採用していたのは、後述のキャノンのEOSくらいなもんですね (EOSは1989年に商品化だと思います)

採用したモータは、たしかUSR-30という型番でした。今も新生工業では型番は現役らしく、WEBを拝見しましたが今のものはすばらしく進化しているようですね。でも当時同社が持っていた駆動回路は手動調整のアナログ式しかなくて、それをかないまるの設計陣でマイコン制御のドライブ回路や位置決め機構を自前で作って搭載しました。社長のSさん、20年お会いしていませんが、元気かなあ。

ところで超音波モータ採用で苦労したのは、実は回転制御ではありませんでした。実はかないまるは専門が自動制御なので、マイコン担当のF君が超優秀だったこともあり回転制御そのものはかないまるの概念どおりに簡単に動きました。

難しかったのはボリウムを手動でも回せるようにすることでした。超音波モータは止まるとテコでも動きませんから、ガタがないからといって直結してしまうわけには行きません。

そもそもボリウムを回したときのしっとりとした重さは、抵抗体と一体化した軸受けと、ブラシを取り付けた回転軸の間に入っているグリスでだしているものです。きころがモータドライブボリウムはその軸受けをギア機構で回転させます。当然抵抗体ハウジングとは一体化されていなくて、モータギアボックス側に取り付けられています。なので、軸受け (=ブラシ)と、抵抗体との間にガタがあり、振動が入り音が劣化するんです。超音波モータを使っても軸受けを回転させてドライブすると同じことが起こります。

そこでTA-ER1のリモコン駆動機構は、ボリウムそのものはモータドライブ非対応のものと全く同じにして、ノブのすぐ後ろに大径のギアを固定。このギアに必要なときに駆動ギアが噛み込んでボリウムをまわし、回し終わったら駆動ギアを外すという凝ったメカを機構設計者に作ってもらいました。超音波モータ 1個の回転力だけでそこまでやるカラクリ細工です。

出来上がったTA-ER1は、亡くなった山中先生が強烈に支持してくださいました。最終を持ち込んだ晩、聴き込んでいたら夜があけたとのことでした。また数人の自由にモノを考える方からも熱烈な支持を受けました。しかし基本的には当時の導入担当者の考えが甘かったのか、アワード的にはほぼ無冠となってしまったかわいそうなモデル。でも一生懸命作った音のいいモデルなんですよ。

次の作品である「CDP-R10 + DAS-R10」はかないまるが自分で導入した初めてのモデルですが、TA-ER1の失敗の原因を自分なりに考えて、評論家のみなさんに聴いていただく姿勢から全面的に変えました。つまり聴いた人全員で作るという考え。結果ステレオサウンド誌のゴールデンサウンド賞まで獲得できました。獲得したトロフィーは授賞式の晩、病床にいた父のベッドサイドに一泊させてもらいました。でもER1とR10は、自分の中では完成度はほとんど同じなんですよ。

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わ、すごく脇道にそれました。

そにかくそういうわけで、かないまるは超音波モータにはいささか詳しいのです。なので、モータが起動するときのごく「キっ」という音と、そのあとの「シー」という音から「モータは生きている」ことには確信がありました。「無条件で交換する?」。とんでもない!。

というわけで駄目元で自分でなおすことにしたわけです。

ではまず分解方法です。


4) ビスを抜きマウントプレートをフリーにする

まずマウントプレートを外します (以下機構の名称はかないまるが勝手に付けましたので、ニコンの呼び名とは無関係です)。



3本のAビスと1本のBビスを外します。AビスとBビスはビス山の目の荒さが違いますので気をつけてください。最後に組み直すときに間違わないように、外すときによく覚えておきましょう。




マウントプレートをそっと持ち上げて、絞りレバーを探してください。



これがマウントプレートが外れた姿です。まだ外れませんが、ここで外れた姿を見ておいてください。左の棒が絞りレバー。問題は右に見えているフレキシブル基板Dで、これをコネクタから外す作業が難しいです (組み立て時の再接続もやはりここが難しい)。


5) コネクタを外す作業をします



まずマウントプレートの絞りレバー側を持ち上げて、絞りレバーを抜き出します。ただし、E 部はまだフレキシブル基板でつながっていて分離はできないので、フレキシブル基板側を支点にして、そっと引き抜きます。(逆順で組み立てますので、記憶しながら作業をしてください)。



コネクタのアップです。コネクタ部はF+Gです。Gはラッチ板になっていて、フレキシブル基板端H部 をコネクタF内部の電極に押しつけています。

フレキを外すには、Jの部分を先のとがったもの (細いピンセットやキリなど) で引っかけて持ち上げます。



すると、GKを支点に回転して跳ね上がり、電極への圧力が開放されてフレキシブル基板Dがフリーになります。

組み立てるときは、この画像のようにフレキシブル基板D水平に一番奥に当たるまでしっかり差し込んでおいてからから G を押し下げれば、カチっとロックして固定されます。外すときに組み込みを練習してもいいですが、あまり何回も挿抜すると簡単に壊れますので、カチっととめる練習は1回だけにしてください。ただしフレキをコネクタの奥まで入れて、一番奥にド突く感覚はここでよく掴んでおいてください (あとからでは「ど突き感」に自信が持てませんよ)。




ラッチGをはね上げたらマウントプレートを持ち上げてください。外れます。



マウントプレートを外すと、二枚のシムリング ( LM )、フォーカス胴 N、フォーカスリングO が順次上方向に外れます。

このフォーカス胴を外すときに難しいのが、オートフォーカスとマニュアルフォーカスを切り換えるスイッチ Pの存在です。これがフォーカス胴を外すのを邪魔します。



このスイッチ部は、まず外側に外し、次に穴を潜らせながらフォーカス胴を持ち上げます。つまりスイッチは本体側に残すわけです。リード線を切ったりするとなおすのが大変なので、注意して作業してください。組み立てるときも、このスイッチ部を元にもどすのが結構やっかいなので、外しながらもどし方を練習しておいてください。


6) 超音波モータ周りを見る

では、フォーカス胴とフォーカスリングを外したところをご覧ください。



これが超音波モータ駆動のフォーカスドライブ部です。とても美しいメカだと思います。

上から固定部、固定子、回転子。ここまでが超音波モータです。固定部に対してと固定子は軸方向にスライドしますが、回転はできません。回転子は固定子に対して回転できるようになっていますが、押しバネで固定子に押しつけられているので普段は動きません。

動かない回転子の下にはフォーカスレンズ (のアッセンブリー) があります。フォーカスレンズには三個の車輪が取り付けられていて、超音波モータの押しバネによって、さらに下にあるマニュアル焦点リングに押さえつけられています。

マニュアル焦点リングには突起があり、外側の焦点リング (実際に手でまわすフォーカスリング) にかみあっています。


7) マニュアル焦点時の動作

マニュアルフォーカス時は、マニュアル焦点リングを手で回すと上の画像のマニュアル焦点リングが突起を介して回されます。このとき上側の超音波モータは動きませんが、車輪はコロコロと回転できます。つまり車輪は移動できるわけで、車輪が移動すればフォーカスレンズは回されることになります。

したがって、フォーカスレンズの移動量 (回転量) はマニュアルリングの回転量の半分となるわけです。これは普段は気づかないでしょうが、フォーカス距離窓の中をよくみながらフォーカスリングをまわしてみれば簡単に確認できます。


8) 超音波モーター駆動時の動作

超音波モーターは、固定子に圧電素子がついていて、共振周波数付近でリング状の固定子の円周上に進行波ができます。駆動歯はその振動により「そよそよ」と揺れます。駆動歯は回転子に押しつけられているので、回転子が回転するわけです。

回転子が回転すると、マニュアルフォーカス時と同様に車輪が回転してフォーカスレンズが回転します 。駆動をやめると回転子は直ちに停止します。超音波モータ駆動のオートフォーカスのキレがいいのは、停止時のブレーキが抜群に強いからです。


9) どこがおかしかったのか

ではいったい故障個所はどこだったのでしょう?。

不良の症状が、もし「マニュアルフォーカスは動く」なら超音波モータの不良です。この場合でも、もし「キッキッ」というような音が出る場合は、固定子と回転子が部分的に貼りついている可能性があります。その場合は回転子を一度持ち上げて固定子とはがしてあげれば、モータは復旧することがあります。レンズ用の超音波モータは、機構がむき出しなので、素人でもなおせる可能性があります。全く音がしない場合は駆動デバイスの不良と思われ、これはお手上げです (完全にくっついている場合も音はしませんが、そういう事態はまず発生しないでしょう)。

今回はマニュアルフォーカスが動かなくて、なおかつ超音波モータの音はしていました。モータの動作音は全く正常。でもオートフォーカスも動きませんでした。

で、分解してゆくと外部フォーカス胴を外そうとするときに引っ掛かり感がありました。そこで、だましだまし小刻みにまわしながら外していたら「カタっ」というショックを感じ、フォーカス胴が外れました。

実はそれで修理完了でした。

フォーカスリングを回してみるとけると、もうマニュアルフォーカスが治っていました。さらに再組み立てしてみるとオートフォーカスも復活していました。

というわけで原因は「落下のショックによるレンズアッセンブリーのずっこけだった」と特定できました。修理、一丁上がりです。


10) ひとことふたこと

この不良の原因は落下です。そして一度バネ側に大きく移動し、元に戻るときにフォーカス胴に引っかかったのでしょう。フォカスレンズアッセンブリがずっこけたわけですが、落下試験を入念にやれば再現するでしょう。まあこれは設計問題かな。押しバネのストロークがすごく大きいですから、機械的にそれをストップする機構を設けるか、バウンスしても引っかからない設計をしてほしかったです。

あともう一点、ちょっと危惧していることがあります。

冒頭ふれたとおり、「このレンズの分解方法が出ているサイトはないですか」という質問がネット上にあるんですが、アンサーは「無理です」の一点張りだということです。「駄目元どころか当たって粉砕かと」とか、「今のキカイは電子化されて難しいんだから素人がいじるのは自殺行為」的な書き込みがあります。

パソコン通信時代だと、こういう質問に答えを書くことができたのは、そういう挑戦をやったことがある人だけでした。パソコン通信用語で「人柱」といいました。修理方法を知らない人は「わからないですね。申し訳ない」とは書いても「分解するのは非常識」みないなことは通常は書きませんでした。だって質問者には何の役にも立たないのですから、そんなことを書くのは申し訳ないというココロがあったのです。

プリンタの修理Q&Aでもそういうのをよくみかけるんですが、かないまるは質問者を追い詰めるようなそういう回答態度がとても嫌いです。質問者にとって何の役にも立てないことを申し訳ないとまず思ってほしい。

次にとっても大切なことがあります。それは「駄目元」でものを壊してみるということです。今の回答者はこの「ダメモト」から否定してかかるようですが、ダメモトはとっても大事な技術習得の手段です。それを殺す風潮もかないまるは嫌いです。

駄目元でいいじゃないですか。自己責任でバラすんです。ダメになってしまっても分解で得られる知識は多いので授業料だと思えば安いもんです。

というわけで、「とにかくやってみましょう。壊してみましょうよ。」 と書きたくて作ったコンテンツでした。



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