その8
ハーベスモニターHLについて
(蘊蓄)
初稿 090214
更新 090215 (誤記訂正と追記)
ここで小休憩。
ハーベスモニターHLというスピーカについて、ついてすこし蘊蓄を傾けたいと思います。
・ブランド名
ハーベスというブランド名は、BBCモニターを設計したダッドリーハーウッドのハーと、奥さんのエリザベスさんのベスを組み合わせて作られたものです。そういえば、スペンドールも創立者のスペンサーとドロシー夫妻の名前が社名の由来です。
・モニターHL
BBCモニターの同サイズのものを、民生用として発売するというう位置づけで作られたものです。しかしBBCモニターとしての共同作業を離れたダッドリーハーウッドが、思いっきり自分の音を出そうとしたのは間違いないでしょう。
ハーウッドのモニターHLは、MK1からMK4までの四作品がありますが、日本に入ったのは透明のポリプロピレン(PP)コーンを持ったモニターML3からだそうです。しかしPPコーンは柔らかいので、当時ロックの再生がやや不得意という評価があったようです。
ちょうど現在評価の高いモニターオーディオなどのようなニューエイジのスピーカメーカが台頭してきて、それと比較されると確かにつらかったのでしょう。
そこでウーファのコーンを新素材であるTPX材に変更したのがモニター HL-Mk4で、MK3より圧倒的に良好な低音になり、かないまるは音を聴いて一発で気に入って購入しました。当時ペア30万円くらいだったと思います。
・TPX材とは
TPXはメチルペンテンポリマーといって、日本の三井化学が開発したものです。
熱可塑性樹脂の中では現在でも最も軽い樹脂で、ボリオレフィン族なので加水分解もしません。恐らくエッジまでTPXで作られているようですが、エッジがダメになる心配もなさそうです。
TPXは本来は透明な樹脂ですが、なんらかのフィラー (カーボンブラックかな) を入れて黒くしてあります。黒くした理由はPPコーンとの差別化もあさでしょうが、主な理由は音質調整でしょう。音匠仕様の粉の経験から考えると、たぶんこのフィラーの量は絶妙なまでにチューニングされていると思います。
・アランショーのハーベス
ダッドリーハーウッド自身が設計したモニター HLは、MK1からMk4まで7年間も続きました。BBCをリタイヤしてから7年ですから、最後のMK4は人生の集大成でしょう。まさにその風格を感じさせる音といえます。
そしてMK4を最後に、弟子のアランショーが事業を引き取り、モニターHLコンパクトやHL MK5以後の作品を作りました。
アランショーの設計は板厚があがり、箱強度が上がっていますが、その代わりやや硬い表情でした。最初に出たHLコンパクトで、おおらかに鳴るハーウッドの作風とは「全く違う音になったな」と、かないまるはとても残念に思うとともに好きではありませんでした。同じ感想をもっている人は多いようです。
・最近のハーベス事情。
そして長らく注目に値するスピーカは出ませんでしたが、最近 (2006年?) に出たHL Compact 7ES-3 がなかなかいいという話を伝え聞いています。2003年からスペンドールの創立者の息子さんのデレク・ヒューズが入社し、昔のBBCモニターの開発関係者も協力しているとのこと。そうしてBBCモニターは、現在はハーベス社製に変わったのだそうです (出展はこちら)。
そんなわけでハーベスは今でも会社が存続していますし、モニター HL-Mk4が完全に壊れてしまっても、代替えスピーカがありそうなのはうれしい限りです。